あなたはこの結末を「誤訳」する。
これが俺のグランドセイバーだああっ!!
――そう、選択肢などなかった。我がカルデアが弱小だった時代に支えてくれたランスロットにしか聖杯を捧げてなかった。ついでに金フォウも捧げてた。しかし、宝具は2だ。
途中までガンガン回っていたのだが、やはり宝具の火力不足が否めない。セイバーだけだと補助も難しい。
次のグランド戦はちょっと考えて用意した方がいいかもしれん。
■あらすじ 世界的ベストセラー『デダリュス』三部作の完結編「死にたくなかった男」の出版権を手に入れたエリック・アングストロームは多言語翻訳を行い全世界で一斉販売することを発表する。そのために集めた翻訳者9人を携帯などの通信機器の一切ない地下室で厳重な監視下において作業させることで小説の流出を防ぐ環境を作っていた。
集められた翻訳者たちは困惑しながらも、お金のためやいち早く物語を読みたいがためとそれぞれの思惑を抱えつつも作業は続き親睦を深めていく。
しかし、とある日に「冒頭10ページを流出させた」という脅迫メールがアングストロームに送られてくる。それも、メールの最後には翻訳家たちで合唱した歌のフレーズが使われており翻訳者たちの犯行と確信したアングストロームは翻訳作業を停止して犯人探しを行うが、その暴力的な警備員の行動に翻訳者たちの間でも犯人探しが始まってしまう。
■感想 観たい観たいと思いながら字幕版でじっくり観たかったのでやっと観れた。
絶対に本編を観ないでネタバレを読むなと言われる作品の代名詞と言えば本作だと思う。
さあ、見せてもらおうか極上と絶賛のミステリー作品の力を!
正直なところ、話題になるのは納得の出来でした。こいつはすげぇや。
ネタバレなしの感想や詳しい考察はもう出尽くしているでしょうからいつもどおりに好き勝手に書きますが、ネタバレは気にしないのでご注意を。自分のようなネタバレされても楽しめるタイプでもなるべく前情報なしで観た方がいい。最後の繋がった感がすごく綺麗だから。
私はこの作品の元となった出来事、『ダ・ヴィンチ・コード』の4冊目で実際に翻訳家を閉じ込めて缶詰状態で翻訳させたなんてことがあったことを知らなかったのですが、昨今は海賊行為や違法流出と戦う相手がいっぱいだ。一ファンとしては普通に買うからと思うが、いち早く読めるという立場というと優越感はすごいものだ。それが得られるのであれば大金だって払う人は当然いる。
集められた翻訳者たちは厳重な管理体制に辟易としたものを感じつつも、基本的には仕事を楽しむタイプが多い。地下に軟禁というと聞こえが悪いが、運動ルームやプールはあるし毎日シェフが目の前で作る豪勢な料理だ。作業時間もきちんと区切られてて日曜は完全休業。1日10ページという少ないと思われるかもしれないが資料は膨大にある図書室つき。ないのはネット環境くらいだよ。やだ、ここにひきこもりたい。
翻訳家の中で印象的なのはアニシノバ。デダリュスのヒロイン「レベッカ」に入れ込みすぎて彼女の服装から髪型までなりきっていて初めはちょいと浮く。そして、初っ端から寝入って作業を送らせる若者アレックスで序盤は進行する。
アングストロームのアタッシュケースに原稿が入っていてそれを持ち歩いているんだけども、アニシノバが独自の推理で番号を解読しようするとかヒヤヒヤする。彼女がレベッカになりきってプールに沈んでいたのを溺れたと勘違いしてアレックスが飛び込んだことで二人が作品をものすごーく理解していることが分かる。そんでもって解釈の違いもね。これが正しいと作者が持っていない答えでも解釈次第では本物になり得ると思うんだけど、こういう話をできる仲っていうのはめちゃくめちゃ楽しいよな。
ここまでにちょこちょこと挟まれるアングストロームが誰かと刑務所で面会するシーンがある。ペルソナ5で言うと「どうなの?」と新島冴さんがジョーカーに迫るのを想像してくれればそれ。
時間軸的に翻訳家たちと地下室は過去で、刑務所にいるのが現在というわけだ。当然、まだ相手は誰か分からない。確か、この辺のボーリングピンでの場面転換がめちゃくちゃ格好いいんだよなぁ。
クリスマスだったのかな、どんちゃん騒ぎで楽しんだ翻訳家たちだがアングストロームに脅迫メールが来て実際に冒頭10ページが公開されてしまう。これ以上を公開されたくなければ金を払えですが、アングストロームは激怒して犯人探しにはいる。
ここで物語の焦点は「誰が流出させたのか」「どうやって流出させたのか」へ。
デンマーク語担当のエレーヌがなにやら書き連ねた文章を持っていて尋問となるが、それは自分の小説。周りを気にせずできる環境は書きやすかったというものだが、ここでアングストロームははっきりと「才能がない」と言いきって彼女の作品を燃やす。
……これは、だめだ。
価値がないとか才能がないとか、そんなのは自分が一番よく分かっているんだよ。見ないふりの何が悪い。それでも書きたいと思えたら、最後まで書くことができればというのが底辺だろうが物書きの心情だろう。他人に奪われるなんてあってたまるか。筆を折っていいのはいつだって自分だけだ。
だから、彼女の結末は――そして彼女の夢への足枷となった家族に対しての吐露はあまりにつらすぎる。
翻訳家の中でも疑心暗鬼になってギスギスしていきますが、アングストロームは次の指定時間に翻訳家たちをほぼ裸にひんむいて迎えますが、そんなんで止まるはずがない。遠隔操作に決まっておろう。
犯人探しを続けていくうちに「なんために流出させたのか」という疑問が湧いてくるが、中盤で刑務所でアングストロームが面会している相手がアレックスであることが分かる。犯人はアレックスかと思うのは焦躁であり、ここで刑務所に入っているのはアングストロームであり面会者がアレックスと分かる。
正直、これは想定内。アングストロームならやりかねない。
困惑の中で流出が地下室以前に行われていたことが明かされる。アレックスには翻訳者内に3人の協力者がいて、アングストロームから奪って気づかれないうちに返すミッションは壮大且つ大胆で楽しい。
けれども、違和感がバリバリだ。あからさまなミスがバレていない。
だが、問題なく成功したのでアレックス含めた4人はみんなで音読することで待望の最終巻を一緒に楽しむ。ここは最後を知ってから見ると、彼にとってこの瞬間は本当に幸せだったんだろうなと感じてしまう。
100ページも公開されて怒ったアングストロームは地下のライフラインを切ってしまう。水も電気も切ってもう殺しに来ているが、そんな中でエレーヌが自殺してしまう。いや、それだけことをアングストロームはやったんだよ。暗闇はいけないよ。
最後の全文公開を前に共犯者のハビエルが耐えきれなくなって暴露しかけるが、ここは地獄なのに翻訳者たちの機転がすごい。
ハビエルを疑うことで共犯者たちは乗り切ろうとするがアングストロームが戻ってきてしまうのでアレックスが名乗り出る。元々、アレックスはデダリュスの1巻2巻の翻訳が不評だからと自己流のものをネットに流すとかしてしてた前科があるから疑っていた。部下をアレックスの家に向かわせていたのだが、それはダミー。ダミーと気づくローズマリーは優秀。
ここまででアレックスがアングストロームの利益に重視のやり方を嫌っていることは明らかにされていましたが、彼の要求は一貫して「著者のオスカル・ブッラクに会いたい」というもの。翻訳家たちはアングストロームがスペイン語を解さないと気づき、咄嗟にアニシノバが通訳しながらアングストロームにバレないように作戦を話すの好き。
けれど中国語で数を数えた時にバレてアニシノバが撃たれる。
アニシノバを助けるためにアレックスは家の場所をいうが、ローズマリーに対しての対策もしていたのでここでローズマリーも裏切ってくれる。俺もいつか上司に言いたいよ、くたばれクソ野郎。
刑務所で最後のネタバレ。
初めからアレックスはアングストロームから何も奪ってはいなかった。鞄のすり替えも振りだけ。アレックスこそがオスカル・ブラックなのだから元々すり替える必要がなかった。
共犯者を引き入れたのもただのブラフ。ローズマリーの写真も、あの壮大な入れ換え計画の人選もすべてはアレックスの入念な計画の下にあった。
え、でもなんかオスカル・ブラックなじいちゃんいたよね? ね? という困惑はすぐに解消する。
本屋のおじいちゃんと子どもの頃からの付き合いだったアレックスは彼を喜ばせるためにデダリュスを書き、それを読んだじいちゃんから出版を勧められる。けれど、乗り気じゃないアレックスはじいちゃんが書いたことにするならと了承し、じいちゃんはせめてとペンネームで出すことに。折衷案ですね。これで知り合いの出版社であるアングストロームのところに話が行ったと。
しかし、アングストロームの売り上げ重視のやり方と翻訳家の尊厳無視にアレックスは怒り狂う。これが、じいちゃんオスカル・ブラックのアングストロームとはもう仕事しない発言に繋がっていた。じいちゃんはアレックスの気持ちを尊重したのだ。
なるほど、つまりアレックスは自分の作品をアングストロームから取り戻そうとしたわけか。
いや、まだだ。今作の核心はそこじゃない。
アレックスが本当の目的は「誰がオスカル・ブラックを殺したのか」
オスカル・ブラックことじいちゃんがアングストロームに絶縁状を突きつけた後のこと、アングストロームはじいちゃんを階段から落として殺していた。冒頭の燃える書籍は証拠隠滅に本屋ごと燃やしたから。そして原稿を奪った。アレックスはアングストロームから殺したとの発言を得るためにここまでやったのだった。
うわぁ、これはすごい。
アニシノバとの会話とかもね、アレックスがオスカル・ブラックであることを知ってから見ると彼が純粋に自分の物語の書いたの感想を聞くのが嬉しそうなんですよ。意識が戻らないアニシノバの病室で続きが一番気になっていた彼女のために音読してあげたり、共犯者たちとも作戦成功時は楽しそうに作品の話を聞いてるんだよ。
だからこそ、売り上げ重視のアングストロームのやり方は気に食わなかったんだろうな。翻訳がつまらないというのも耐えがたいのだろう。そしてそれ以上に、幼い頃から大好きだった友達ようなおじいさんを奪ったことが本当に許せなかったんだと思う。
ここで気になるのが、キャッチコピーの『誤訳』とはなにか。
翻訳家たちとかけてアレックスの真意を読み間違えるってことなのかな? ミステリと思っていたら復讐譚だったみたいな。
私はどうにも物語の展開から先読みをしてしまうタイプなんですが、情報が後から次々と明かされていくので目移りして想像できませんでしたね。最後までやりきったアレックスの復讐は爽快なのだろうが、アニシノバのこともあって大団円とまではいかない。
というか、他の翻訳家たちのその後がないのがかなり残念だ。そもそも9人もいるせいで背景がほとんど語られないなんて人もいる。この辺りは難しいよな。
あとこのミステリの形式上これまた難しいのだが、主人公という主軸となるキャラクターが途中まではっきりしないから感情移入がしにくいのが、自分的にちょっと観にくかった。
では、最後に今回のお気に入りへ。
アニシノバとアレックスはお互いファンということで分かり合っていたのだが、アレックスの嘘に気づいたアニノシバは信じられなくなっていた。ひたすらに「オスカル・ブラック」本人に固執するアレックスのことをアニシノバは否定する。
「オスカル・ブラックが誰か知りたいだろ?」
「彼の意思を尊重したい」
ここからの流れでアニシノバが再びアレックスを信頼するまでの流れも好き。
ちょっとメモってないのだが、会ってどうするのかって問うたら「ただ話を聞きたい」と答えたところもいいんだ。
私は作者や好きなアーティストの素性とかプライベートには興味がないのですが――いやこの言い方だと語弊があるか。どこの誰で何をしていようと、その作品が好きであることには影響しないし、多くを知ってしまうことで先入観が生まれてしまうことが嫌だ。むしろ、相手が知られたくないことに知らぬ間に触れてしまうことが怖い。だから表に出ないという意思を尊重したいというアニシノバの意見は嬉しい。
もちろん、恐れ多くも話せる機会なんか得られたとしたらずっと話を聞いていたい。作者が作品のことを語ってくれるとか最高だよな。作成秘話とかずっと聞いていたいよ。けっして緊張しまくって上手く話せないとかじゃないんだよきっと。
9人の翻訳家 囚われたベストセラー(字幕版) - レジス・ロワンサル, レジス・ロワンサル, ダニエル・プレスリー, ロマン・コンパン, ランベール・ウィルソン, オルガ・キュリレンコ, リッカルド・スカマルチョ, シセ・バベット・クヌッセン, エドゥアルド・ノリエガ, アレックス・ロウザー, アンナ・マリア・シュトルム, フレデリック・チョー, マリア・レイテ, マノリス・マフロマタキス公開日2020/1/24
配給 ギャガ