2025年01月15日

ペッパーズゴースト



「先行上映だ。本人が翌日リアルに体験することを俺は、俺たちは先行上映で少し観させてもらう」


 今年の私はなんと――FGOの福袋を我慢することに成功しました!
 いや、だってファンタズムーンの時に課金しちゃったし……ちょっと様子を見たかったのだ。あとはくのんLv.120の道が長くてな。あとちょっとコインがあれば状態なのでさっさと絆をあげねばな。


■あらすじ
 中学教師の壇は飛沫感染によってその人が未来に見る光景を先行して見ることができる。父も持っていたこの先行上映の力でささやかな手助けをしていた壇だが、生徒の親をきっかけにある事件の被害者家族が集まるサークルと関係を持つことになる。そして、事件へと巻き込まれていくのだが、そこで生徒の書いた小説の中のキャラクター・ネコジゴハンター、「猫を地獄に送る会」として猫の虐待動画を煽り楽しんだ者たちを制裁する二人組と実際の世界で出会うことになる。


■感想
 今年はちょこちょこ小説も読んでいきたい、と手に取ったのは伊坂幸太郎さんのペッパーズゴースト。たしか発売日近辺では買っていたけど、本を持って動くことができない時期だったので年明けから読み始めた、はず。
 さすが伊坂さんと言うべきか、読み始めると早いスラスラ読める。独特の視点切り替えが相変わらず良き案配で、基本的に読書は移動中に行なうのですがちらほら読み進めていましたな。

 さて、ざっくり概要。
 今回の起点となるのは3人。中学教師・壇先生、ネコジゴハンター・ロシアンブル、被害者サークルの一人・成瀬彪子。
 基本は壇先生がメインだが、特殊なネコジゴハンターについてを簡単に。

 過去に「猫を地獄に送る会」として虐待動画がアップされていた。動画をアップした者だけでなくその残虐性を煽った無責任な者たちにやり返すのが猫を地獄に送る会ハンター、略してネコジゴハンター。ロシアンブルとアメショーと猫の種類を名乗る2人組の男たちなのだが、この2人は本当に良いキャラでね。核実験などを心配する超絶心配性のロシアンブルとなんに対しても楽観主義のアメショー。
 猫を愛してネコジゴには容赦しない2人は生徒が書いた小説のキャラクターだ。猫虐待云々で壇は少し辟易としているが、『魔女魔少魔法魔』でも猫殺し趣味の子がいたようにいたぶりやすいんだろうか猫。あんなに強いのにな。

 生徒の小説を読みながら、他の生徒・里見大地が未来に見る光景――先行上映を見て彼が事故に巻き込まれることを知ってしまう。未来を知ったところで事故を未然に防ぐことなどできないと知っている壇先生はせめて生徒が巻き込まれないように占い師の予言を語って忠告する。そして、それを聞き入れた大地は事故を回避するのだが、それを疑問に思ったのが大地の父親だった。
 内閣情報調査室に勤める大地の父・里見八賢は壇が事故を起こしたのではないかと疑うが、先行上映を駆使してその誤解を解こうと秘密を教える。
 それを検証するために再び会うはずが、やって来たのはカフェ・タイヤモンド事件の被害者遺族である野口と成川の2人。なんと里見は壇のことを言い残して姿を消してしまったとのことだが、様子がおかしい。名前が壇ではなく段田だったり、ちょっとおかしい。里見が壇の素性を隠している?と探り探り付き合うことに。

 さて、カフェ・タイヤモンド事件とは簡単に行ってしまうとレストランに猟銃を持った男どもが立てこもり、客や従業員を巻き込んで死んだ事件。被害者遺族曰く、突入しようとしていた警察をテレビのコメンテーター・マイク育馬がおっかけ報道をさせ中継したことから犯人に動きが知られて自爆となったというもの。
 彼らはマイク育馬を恨んでいる。さてどうなるのか。

 壇は先行上映で里見が監禁されていることを知る。
 先生が大変な時でも小説の中ではネコジゴハンターが猫の復讐をしている。
 ひょんなことから本名がバレてしまった壇はあっさり拉致られて監禁される。あいては野口だった。

 拉致監禁で精神的に追い詰められた壇を助けることになったのは、ロシアンブルとアメショーだった。
 うん、2人は小説のキャラクターではなく実在の人物。生徒の父親がネコジゴハンターに懲らしめられているところを目撃した生徒が小説にかいただけ。本物だった。

 ここでもロシアンブルとアメショーは相変わらずで、そこに壇先生が入っていく。被害者サークルが起こす事件に焦点が移っていくわけですが、別々だった視点が最後には一つのパーティになるのがすごく良かった。野口を止めるという目的のために壇、ロシアンブルとアメショー、成川が組んで動くことになるのだが、壇先生だけちょっと損な役回り。相手に舐めてもらった切手を舐める間接キスで先行上映ってw

 このサークル、いや野口たちが起こしたテロはなんとも言えないよな。結局現在は無責任な発言が発端となる時代だ。それがテレビでもネットでも、炎上したらもうどうにも手につけられない。それを上等と狙う炎上商法なんかもあるわけで倫理観が欠けてしまっているのかもしれない。作中で、生真面目に生きてきても奪われるだけみたいな発言があるが、それならいっそと思っちまうことだってあるよなぁ。家族や恋人を失ったなら尚更だ。
 そうやって誰もが一生懸命にテロ、大惨事を防ごうとする中でロシアンブル、もしくはアメショーの行動には笑ってしまった。

 だって、初めから彼らにとってはテロより猫の復讐だ。そんでもって贔屓の球団には勝って欲しい。相手がノリにノった新記録達成間際のバッターならば尚更だ。
 全くもって彼ららしい。そう思えるほどには読後に愛着持ってしまう物語でした。

 え、ニーチェのこと? 僕も学生時代に入門書を囓った程度だから触れられないんだぜ。

 では、この辺で今回のお気に入りへ。
 壇がかつて救えなかった生徒に負い目を抱いていることを知ったロシアンブルの言葉。起こりもしないようなことをなんでもかんでも心配しているロシアンブルが壇に「生徒は死んでいるのか?」と問い、生きていることを知った後に言う。


「だったら、会いに行くなり、何なり方法はあるだろうが」そんなつまらないことで悩んでいること自体、ロシアンブルには羨ましかった。隣国が開発する生物化学兵器が、突如襲ってくる精巣捻転症などの恐怖に比べたら、大した悩みでもないだろうに、と。まだやれることがいくらでもある。


「もうおしまいだ」が口癖のロシアンブルだが、彼は基準がちょっと違うだけで、普通は難しいと思われることをさも簡単のように言ってくれる。
 そういや、僕が小雨であろうとも傘を差す主義なのは幼少期に読んだ酸性雨の怖さからだったと思う。いや、だってハゲるって書いてあったもんw






ペッパーズ・ゴースト (朝日文庫) - 伊坂 幸太郎
ペッパーズ・ゴースト (朝日文庫)
伊坂 幸太郎



posted by SuZuhara at 14:59| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする