2025年05月10日

あとはおいしいご飯があれば



「一人でいようが、誰かといようが、楽しければいい」


 また胃が壊れたぜー! いえーい、何度目だこれ!
 食えない飲めない脱水症状でぶっ倒れる寸前に会社を早退し、帰り際におそらく心配して来るであろう家族の夕食を準備し、犬の散歩に行った後に案の定倒れる。大丈夫、ベッドの上だ。以前の玄関で倒れて後頭部強打で意識を失うなんてヘマはもうしないさ。
 が、予想通りに来た家族がわざわざ起こしてくれる。用意しておいた夕食を食べる間の話し相手をさせられる。後片付けも当然俺。意識が朦朧としている。水を飲めと起こされる。含むようにして飲まないと吐く――しゃらくせぇ飲めと押し込まれる。
 そんなこんなで目が醒めたのでゲームするかとなるいつものパターン。今回は起きてられなかったのでPSvitaでジャスティス学園やってた。vitaはいいよね、一番好きなハードだよ。


■あらすじ
 子どもの時のように花丸なんてもらえない母親の内緒のクレープ。高校時代にほとんど接点のない同級生が分けてくれた出汁。孫のために祖母がよく作ってくれただし巻き玉子。
 日常に寄り添う食に関するショートストーリー集。


■感想
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 自分がちゃんと食えないせいか食べ物系をよく手に取る。今回興味を持ったのはショートストーリー集だったからかな。以前に感想を書いた『彼女のこんだて帖』みたいなかんじだったらいいな、と思っていましたが、連作短編のようにうっすら繋がったストーリーでとても良かった。高校時代の変わった子はよく出てきて笑ったw
 あと、どうでもいい話だが、本屋でよくおかれている栞の世界遺産シリーズが好きでついついもらってしまう。大学時代にアメリカの図書館でもらった栞とかライブチケットの半券とか、いろいろ好き勝手に使うんだけどもね。

 さて、全部で13編もあるショートストーリーを全部語るのは野暮なので好きなモノを3つほど。
 
・秘密の昼ご飯
 高校で女子の仲良しグループに入れずに一人で昼ご飯を食べるところを見られたくない一心で体育館に来ると同級生の少女がいた。名前だけ知っていた彼女と同じ場所で食べることになるが、彼女が美味しそうに飲む水筒の中身が気になってわけてもらうことにした。

 実は特別好きでもなかったりするのだが、この少女・大船ココアがちょくちょく出てくる子。知っているかもしれないが、僕は特に名前の有無を重視しないので名前は出てこない方が好ましかったりする。
 一人で隠れるように、ココアからすれば良い場所に陣取っているだけなのだが、弁当と一緒に自分で取ったという出汁を飲んでいる同級生なんていたらびっくりだな。高校の時は昼ご飯なんていかに安く済ませるかくらいしか考えていなかった。
 けれども、自分が隠くしたいと思っているぼっちであっても自然に好きなことをやっている同級生の存在は大きかったんじゃないかな。学生時代のぼっちって慣れるまではキツいもんだよ。


・二人の草と草
 一緒にいるけど恋愛関係ではない博人に告白されて千晶は幻滅したが、博人が求めているのは恋愛関係ではなく入院して気が弱っている母親の前で恋人のふりをすることだった。
 それくらいならと引き受けて会いに行くと母から博人が好きだったチーズ入りハンバーグのレシピを教わり、千晶がその場でスケッチブックにイラスト入りで記すととても喜んでくれる。

 僕はあまりアレンジはしないというかハンバーグならハンバーグとしか作らないので、チーズってただ入れるだけじゃないんだなと素直に感心してしまった。胃が治ったら作ってみたいね。
 千晶の恋愛観はほんそれと言いたくなるもので、気持ちはよく分かる。告白された瞬間に即さよならとか、お前は俺かと思ったわ。
 だが、二十年来の友人である博人の頼みだと母親に会い、レシピを教わってその日に作ってみたりしてまた母親に会いに行った時、母親には博人と付き合っていないことを知っていた。

 だからと言って修羅場になるわけでなく、お互いに結婚とかしないけれどこれから先もずっと仲良くやっていく関係であることを説明して母親ともちょくちょく連絡を取り合う仲に。
 ああ、良かったな。結婚とかしても離婚する可能性だってあるわけでずっと一緒なんていられない。だから、わざわざ形にしなくていい関係だってあっていいと思うんですよ。
 まぁ、いずれ年金とかそういう問題が出てきたら籍だけ入れときゃいいんじゃないですかね。


・父の遺した○
 母と離婚して以降疎遠だった父が死んだと知らせが来た。遺品整理を業者に任せたが、父はどうやら野良猫を飼っていたようで処分することは出来ずに一時的に引き取ることに。
 獣医に診せて飼い主を探すはずが、キャットフードを食べずにどんどん痩せていく猫。どうすることもできないと自分のご飯を作るために出汁パックを取り出すと途端に猫が反応し、出汁の匂いをキャットフードにつけてやると食べ始める。生前の父もこうしていたのかとほんの少し思いを馳せる。

 ここで猫のことを相談する友人はおそらくココア。ココアはこれ以外にも雨の日に車でリモートワーク女子としても登場している。たぶん。
 ちょっとだけ、好きじゃない人であってもその暮らしが見える瞬間っていうのはなんだか愛しい。動物が関わってくると特に。
 この物語には毎回出てくるレシピがイラスト入りで掲載されているが、これだけ猫入ってるのずるいよ。


 ご飯はだし巻き玉子と舞茸の炊き込みご飯が美味そうでしたが、肉豆腐もレシピ簡単で良いな。元気になったら作ってみたい。
 だが、如何せん、出汁レシピ多過ぎだろ。出汁好きだけど胸焼けするわ、とか思っているとレシピ監修がにんべんだしアンバザダーとなっているので出汁は必須なんか。ちとくどい。
 あと僕のようにほとんど料理本を読まない人間にはレシピが分からないことがある。だし巻き玉子にアオサを入れるとあるが、アオサって言っても乾燥とか粉とかいろいろあるじゃんかどれだ?となるわけですよ。初心者は遠憲さん並の勘違いとかよくするんだよ。

 そんなこんなで僕が作る再現レシピは愉快な結果になりそうですが、物語としては軽くとても読みやすい。ちょっとした時間で読めるのでおすすめだが、装丁がしっかりしているせいか定価は高め。この値段なら倍のページは欲しい。もう何編かあっても絶対に好きな話なんだがなー。

 では、ここで今回のお気に入りへ。「二人の草と草」から千晶が聞いたレシピをイラスト入りで描いたのを母親に見せたシーン。


 できました、と言って絵を見せると、当時を思い出したのか。お母さんは笑って泣いて、また笑って大騒ぎだった。自分は絵を描くくらいしか能が無いと思っていたけれど、それでじゅうぶんだなと思った。


 いや、それすごいことですって。
 まったくの門外漢からするとすっげーっ!としか言えないことも、それが当たり前になっちゃうと大したことなく思えちゃうんだ。でも、それはすげーっすわ。そんなことをさらっとやっちゃうあなたは格好いいんですよ。






あとはおいしいご飯があれば - 柊サナカ
あとはおいしいご飯があれば - 柊サナカ
双葉社
2025/02/19




posted by SuZuhara at 21:43| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする