「おまえたち二人、どちらかが死ななければいつか結婚するぜ」
世間は大型9連休らしいが、こっちは暦通りだよこんちくしょうっ!
毎日仕事やめたいと思い続けてましたが、昨日ふと上司から「お前がいないと困る」と言われて不覚にも感動してしまった。
そんな昨日の帰り道、独り言の多い私が言ったのは「仕事やめたい」だったがw
■未来予報 あした、晴れればいい
小学生時代、転校してきた古寺とクラスの女子・清水と仲良くなった僕こと小泉だったが、未来が分かるという古寺から「どちらかが死ななければ結婚する」と言われて、それ以来清水と上手く付き合えなくなってしまう。
それから意識しつつも避ける日々が続き、小泉が定職にも付かない自分に負い目を抱いていた時、清水の入院している病院へと訪れる。
これは、挿絵が神がかっていた。
この本を取る経緯は次回以降に描きますが、正直なところ、あまり好みでない絵なため、自分では手に取らなかったことでしょう。
でも、病院での挿絵、『彼女は車椅子の肘掛に肘をつき、顎を手で支えて、にやり、と笑った。』のシーンはやばすぎる。
この物語は分かりやすく言うとデスノートみたいに古寺が見た未来を描きためたノートが発端で始まる話。無論、デスノートではないので人の死に限ったことではないし、的中率も百パーセントではない。というよりむしろ、未来が曖昧に記されているもの。
僕はそれをインチキだと思いながらも、三人で一緒にいるのが面白かったから一緒にいたが、清水と結婚などと言われて居辛くなる。
だけど、ずっと清水のことを気にしていて、職につかない自分の不甲斐なさとかを抱えながらバイト先で殴ったことで骨折した手の治療のついでと言ってお見舞いに行く。
しかし、見舞いに行くことはできなくて中庭でボーっとしているところに車椅子の女性にあって他愛もない話をする。
その後、清水は亡くなり、母親からあなたと病院で話したことを嬉しがっていたと聞く。
ああ、ともうこの展開は辛すぎた。清水の笑顔に目を奪われたつい直前から。
僕の状況というのは職が見つかる前の私の心境と同じなので、だからこそ清水の言葉は胸に来てしまう。
久々に読んだ乙一さん作品がこの話で私はとても幸運だろう。
■手を握る泥棒の話
友人と腕時計を作っていた俺だが、売り上げがおもわしくなく新作の発売が中止される。世界で一個だけの試作品である腕時計を身につけた彼はなんとか資金を稼ごうと金持ちの叔母が止まる旅館に潜り込んだ穴を開けて鞄を盗もうとするが、運悪く残っていた少女に気づかれ、咄嗟に手を握ってしまう。
タイトルまんまとはこのことか、と思うほどのまんまなないようですが、中々面白かった。むしろ、最後の関係が気になるぜ!
二人は壁を挟んで手を握りいろいろな話をするのだが、最後彼は失敗してしまい作業中に落としてしまった腕時計をかいしゅうしたつもりが、少女の腕時計を持ってきてしまう。
翌日叔母に呼び出され、時計から自分だとバレたと観念するが、実は目印にしていた岩が映画のセットで彼は違う部屋を襲撃していたことが分かる。
それから、経営が回復したことから生産された腕時計がとある女優が身につけていることから売り上げが伸びていた。
友人に連れられてその女優の握手会に行って握手をした途端、彼女は手の感触から彼に気づく。
きっと壁越しの会話が彼女にとって胸に響くものがあったのでしょう。だから、彼の時計を身につけ探してもらおうと、いや気づいてもらおうとしたんじゃないかな、と……。
くそぅ、何そのいい展開っ!
■フィルムの中の少女
少女が先生と呼ばれる男を呼び出し、大学の映画研究会で見つけた見る度に振り返る少女のことを話す。
その封印されていたフィルムを見つけて以来、少女は彼女のことを調べていてそのことを先生に語り聞かせる。
あらすじがぞんざいなのを謝罪したいが、正直な話、私はあまりこの話を理解していない。
語り部である少女の周りくどさは先生でなくともイライラするだろうが、それ以前に要領を得なかった。こういう点がファンタジー好きを装った現実主義と言われる元凶だろうか。
つまり、少女にはフィルム少女の霊がついていて先生に会いに来る。そして、彼女の死の真相を少女を通じて知らせるというものだと思うのだが。
とりあえず、親父とその母親は殴ってもいいですよね?
■失はれた物語
夫婦喧嘩をした直後に交通事故で五体満足に動けなくなった夫。腕の感触と人差し指だけが動くのでそれで意思疎通を行っていたが、だんだん疲れていく妻に気づいてしまう。
不覚にも、電車の中で号泣した。
もう人目も憚らずに。うわ、思い出すだけでも恥ずかしいわっ。
事故以来、身体が動かなければ声も聞こえないため、妻が掌に描いてくれる情報と腕をピアノに見立てて引いてくれる曲だけが夫の世界だった。
しかし、妻の疲れに気づいてしまう。これ以上縛ってはならないと決意した夫の行動は、もう反応しないことだった。
指を動かしてイエスかノーを示すだけのコミュニケーション。それをやめ夫は妻を解放する。
妻も夫の魂胆に気づいていてさ、それを受け止めて「ごめんなさい。ありがとう」とか言ってくる。
次第に妻が訪れる日々が減り、ついには全く来なくなってしまう。
夫は自分が部屋の片隅に放置され誇りをかぶった存在なのだろうなんて思うが、それでも妻や娘たちが自分を忘れるほどに人生が充実しているならいいと言う。腕で感じた二人の思い出があるからと。
ああもう、感想書いてるだけでボロ泣きしている私がいる。
昔恩師が「泣ける物語というのは悪い作品だ。だって醜態を晒してしまう」と言っていたが、本当だな。思い出すのは大切な時だけにしよう。
では、今回お気に入りシーンへ。
清水の優しい言葉にしようと思っていたのだが、今の私は自分を慰める言葉を残すほど私に優しくないので『失われた物語』から彼が動かなくなるところを。
決心は昨晩のうちに終えていた。夜が終わり、窓から差し込んでいるらしい朝日の温もりを皮膚が感じはじめるころ、すでに自分の自殺ははじまっていた。妻がいつものように病室を訪れ、指先で皮膚の表面に「おはよう」と書いた。しかし自分は人差し指を動かさなかった。
こんな悲しい自殺があっていいのだろうか。
幸いなことに私は自殺を考えたことのない人間だが、家族の重荷になったときにこんなにも強い決意で貫けるだろうか。
この夫の決意を自殺と表現したところに脱帽です。
さみしさの周波数
乙一
角川書店 (2002/12)