2012年05月06日

塩の街―wish on my precious



 恋は恋だ。たとえ届かなくても。


 小学生のうちに断念したピアノを、もう一度やってみようかとちょいちょい思い始める。理由はすごく身近な奴のピアノに関する気持ちだけが分からないから。
 だがしかし、腕時計好きな私は最近狙っているものがあったりして、他にも仕事用の靴や壊れてしまった傘などを新調したりしたばっかなので経済的余裕ががが……。
 うーむ、いつだって私を悩ませるのはお金らしい。


■あらすじ
 塩が世界を埋め尽くし、次第に人間すら塩と化してしまう塩害が進んだ世界。親を亡くした女子高生・真奈は以前助けてくれた秋庭と暮らしながら、変わってしまった世界で変わった人生を歩むことになった人たちと出会う。
 そして自分を見つめ直した時、秋庭に軍からの向かえが来て生活の場は駐屯地に移る。そこで今まで近かったはずの距離が離れたことから真奈の秋庭への想いが募るのだが、秋庭は真奈が大切だからこそ明日をまもるために戻ってこれないかもしれない作戦に身を投じることをきめてしまう。


■感想
 おばちゃんに借りた小説第三弾。有川さんのデビュー作であり軍隊シリーズの第一弾だが、私は『空の中』しか読んでいなかったのでファンタジックで驚いた。
 ま、考えてみれば『空の中』そうだけれども。あれは大人が主人公でもあったから、私の中でそういう分類にはされていなかったのである。

 端的に言えば、二人の愛が世界を救う。
 この言い方は本編で違うと否定されているのだが、やっぱり二人の愛だろう。それが例えついでの結果論だとしても、それだけ大袈裟にする価値はあるはず。

 物語は大きく分けて三つ。
 遼一、トモヤ、真奈と秋庭を中心に語られる。

 始まりは大きな荷物を持った少年・遼一が海を目指しているところで行き倒れ、真奈と出会うところから。
 よく拾い物をする真奈に渋面を作りながらも遼一の願いを叶えるために秋庭は車を出して辿り着くと、遼一は背負っていたリュックから塩の結晶と化した恋人を海に撒く。

 これは、死に行くみたいだとは感じつつも辛かった。
 塩害があったからこそお互いの気持ちに気づき、彼氏は塩と化した彼女を海に撒き、海に彼氏は塩となっていく身体を鎮める。
 真奈と秋庭は彼らの満足に付き合わされる形となったが、遼一の最後の言葉が胸に来るのは、そこまで言い切れるすごさにあると思う。

 次のトモヤは脱獄犯。
 海からの帰り道、トモヤに襲撃されて真奈を人質に取られてしまったことから渋々従いながら彼の話を聞く話。

 こいつはどうしようもない奴だけど、そうだよな、と納得もさせられた。懲役ってトモヤが言うように、それでやり直させてやるってことだよな。
 私は学生時代の生き方全てが黒歴史だと思っている人間だが、小心者故に一線を越えることなどなかった。何より、そんなものを超えたら家族に迷惑だからな。

 懲役一年六ヵ月でぶち込まれていたトモヤは塩害の実験で白い部屋に入れられ、自分の身体が潮を吹き始めたことを怖れて逃げ出した。最後は真奈に見送られながら死んでいくが、どうしようもない奴だけど決して悪い奴じゃなかった。どうしてこんなことになったんだろうな。

 次は真奈。
 塩害発生の日から秋庭に会うまでたった一人で生き抜いていたことの模様や遼一とトモヤの件から気丈だった部分が脆くなり始めていた。
 そんな真奈を秋庭は大切に思っていて、真奈を失うことをなりよりも怖れていた。特にいつ起こるか分からない塩化にどちらが先かというような。

 そんな二人の元に訪れたのは、秋庭の友人を名乗る入江。
 彼は立川の総指令であり秋庭が空軍ニ尉であることが明かされて、暮らす場所を駐屯地へと移し距離が遠くなったことに真奈は不安を覚える。
 そして秋庭が好きなこと、誰よりも秋庭に生きてほしいと伝えるが、秋庭は真奈の生きる明日のために塩害の根源である空から落ちてきた塩の塊を叩きに出撃してしまう。

 お互いを思っているからこそ擦れ違ってしまうのは切なかったが、何より女は強いなと再確認させられた。世界なんかどうでもいいと言い切り、男が立ち上がる大義名分なんか必要なくともたった一人のために行動してしまう。そこまでされて、男が黙っていられるはずもなく。

 女子高生と軍人、普通の世界では決して交わり合うことのなかった二人の愛の話は壮大でしたが、私は遼一やトモヤの話の方が好きでした。
 そんな大きなものでなくていい。ただお互いもう会えない人を思っての最後というのが胸に来たのです。

 では、今回お気に入りシーンへ。
 遼一が海に来た理由を知った時に真奈は泣いてしまうのだが、彼は悲観することはないという。だって、幸せだからと。


「でもね、ホントに俺たち、けっこう幸せだから。こんなことでもなかったら、俺たち自分の気持ちに気づかなかった。こんなことになっても、気持ちが通じないまま別々に道歩いていくより幸せだったって、負け惜しみじゃなくそう思えるんだ。わがままかもしれないけど、身勝手かもしれないけど――俺たちが恋人同士になるために、世界はこんな異変を起こしたんじゃないかって、そう思うんだよ」


 そう思える境地まで、彼はどれだけの悲しみを抱えたんだろうな。塩化してしまう理由を知った時、真っ先に涼平のことを思い出して辛くなったが、その理由が分かっていても彼はきっと止めなかったでしょうな。

 

塩の街―wish on my precious
有川 浩
メディアワークス (2004/02)
posted by SuZuhara at 16:57| ライトノベル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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