「その自殺、一年待ってもらえませんか?」
寒い、毎日寒すぎる。ストーブが壊れていたことを知り慌てて買いに行きましたが、いろんなものが入用で泣きそうです。
まあ、幸いなことに本だけは買いだめがあるので大丈夫なんですけどね。感想待ちも大分溜まってるんですけどね。
……今年が終わるまでに追いつこう、うん。
■あらすじ
一年待ってくれれば眠るような安らかな死を提供する、と言われて仕事をやめて一年間生きることにした女性。ひょんなことから親のいない子どもたちの世話をする家のボランティアをするおばちゃんとして過ごすことに。だが、そこの園長の死から家の存続ができなくなり……おばちゃんは自分にかけた生命保険金で子どもたちを救おうとするが、そこで初めて未来を惜しいと死にたくないと気づく。
一方、人気絶頂で難聴になったのバイオリニスト、妻と娘を殺された被害者家族の男、三十代のOLの自殺の関連性に気づいた雑誌記者・原田はその裏に死のセールスマンの存在を感じ、事件を追っていく。
■感想
帯に惹かれて手に取った作品。この作者さんは長編を読むのは初めてです。
まず初めにこれはおばちゃんと原田の話を交互に読むことになるが、なんともまどろっこしいことに時間軸が同じじゃない。このせいでセールスマンたるXがまさかあの人とは最後まで気づかなかった。こいつ辺とは思ってたんだけどね。ああ、負け惜しみですよくそぅ。
おばちゃんの話はあらすじで書いた通りなのだが、おばちゃんが子どもたちと仲良くなり守りたいと思うようになった時、丁度約束の一年が経ちおばちゃんは魔法の薬を手に入れる。
原田は三人の死からセールスマンの存在に気づき、三十代のOL・高野章子の一件から事件を追っていた。今思うとこれは高野氏とおばちゃんをイコールで考えたりするべきだったのかな? 最後に名前の件が出て来てなんで今更このネタ、って思ったんだ。ここはこうやって考えるべきだったのかな?
まあ、それは置いておいて、原田は高野章子の人物像を追い、彼女に近づいていくがセールスマンの正体がつかめない。それもそのはず、正体は高野章子自身だった。
植物に詳しい教授が死の間際に託してくれた植物を育てる、その一年で死ねると思った高野は同じく死を求めているだろうバイオリニストと被害者家族にも一年待つことを伝える。だが、すげなく追い返されてしまう。
どうしてだろうという想いを抱えながら最後に声をかけたのはおばちゃん、と言っても同じく三十代なのだが。おばちゃんはそれを受け入れ、高野はこれ以上仲間を増やそうとしなかった。
そして一年後、高野は自殺した。他の二人も以前のように生きることへの意義を見つけられず薬を飲んだ。
飲まなかったのは、おばちゃんだけだった。
おばちゃんは飲んで死ぬ気だったのだが、家を守るためのいざこざがあり、何よりもおばちゃんを大切に思ってくれている家族がそこにいた。おばちゃんはまたきちんとした仕事について、園長亡き後の家をもう一人の働き手とそして子どもたちとともに生きていくことを決めた。ああ、いい話ですね。
原田の方は高野が詳しいことを書いていなかったためにおばちゃんには辿り着かない。でも、そうとは知らないままに出会ってちょっとした世間話を最後にする。
彼のもしあのとき一言いっていれば、という考えは好きでした。変わらないけど、変わったかもしれないという考え方が。まあ、私には家族以外を気にできるほどの甲斐性はないけれども。
正直、死のセールスマンの存在に惹かれ、保険を入ることを薦めてその後自殺しろという原理に興味を持っていたのですが、そこに大した意味はなくて残念。
だが、おばちゃんの話は先が気になりましたな。善意だけでは回ってない世間。頼れる園長も結局は見えていなかったと知り、立ち上がるおばちゃんは素敵です。工藤もいい奴で、サトシの有能さは素晴らしい。だからか、ドイちゃんは好きになれない。彼女の行動は全く持って合理的だが、情がないというか……切実なところを利用するなといいたい。下心のあるボランティアとか嫌すぎる。
まあ、かくいう私も落ちてる小銭を拾っていたらゴミ拾いのボランティアと間違えられて表彰されたことがあるのだがな! ……最低だよな。でも、見つけたら拾うだろうよ……。
では、この辺でお気に入りシーンへ。
家がなくなるという事実が目の前に突きつけられた園長の死の後、己の無力さを噛みしめて泣いてしまうおばちゃんに子どもたちが「泣かないで」という。泣かないと約束すると「なら、わたしも泣かない」と彼女は言い、年上の少女が彼女の頭を撫でる。
そんな、何でもないけど支え合った光景。それを見ておばちゃんは思った。
ああ、とその姿に私は思った。
私はやっぱりこの世界の未来が愛しかった。
初めは一年後に死ぬためだけに生きていたおばちゃん。子どもたちのことも、その時までの暇つぶしでしかなかった。
なのに、この言葉を聞けた時は嬉しかった。結構どん底でもちょっと視点を変えれば希望は見つけら得るものだと思う。例えあのゲームが延期しても、他のゲームが発売するなら俺はまだまだ生きていけるからな!
チェーン・ポイズン
本多 孝好
講談社 (2012/1/17)