2014年02月13日

祈りの幕が下りる時



「頼みがある。一世一代の頼みだ」


 なんとも未だに調子が取り戻せませぬ。
 二月は予想外のことが目まぐるしく起こるので混乱しているのかもしれませんが、そろそろいつもの調子に戻りたい。また今週末も雪らしいので新しいゲームでも買ってくるかなー。


■あらすじ
 松宮が身元不明の遺体を調べていたところ、遺体の身元は分かったのだが分からないことばかりが浮かんでくる。その謎に頭を悩ませていた時、親戚の加賀と飲みに行き、ひょんなことから遺体のあった部屋のカレンダーに記されたの日本橋にある橋のことを話す。
 すると加賀は血相を変える。それは加賀が日本橋を希望した理由であり、亡くなってから再会した母の部屋に全く同じ内容のメモが残されていたからだった。母の想いを知ろうとしていた加賀はこの事件を通してある親子について、そして母について知ることになる。


■感想
 ここに感想を書いているかはちょっと覚えていませんが、ちゃんと最初から読んでる加賀恭一郎シリーズ。
 今回は加賀さんにとってとても重大な事件でしたね。読んでいて先が気になって仕方なかったです。しかも、全然想像できなかった。最後まで行って収束していく感じはもう脱帽の一言でした。

 さてさて、感想に行こうか。
 始まりはとある女性が仙台で暮らすことになり、そこで周りの人に支えられながら生きていくところから。傷を抱えていた女性はある一人の男に会い、恋愛関係というか大切と思い合える人を得る。だけども、病気で一人死んでしまうのだ。
 彼女の死を知った男は事情があって表に出ることが出来ず、代わりに彼女の息子の連絡先を掴んでくる。
 そう、それが加賀さんだ。この女性は加賀さんが子どもの頃に家を出た母親だったのだ。

 話は飛んで松宮の事件。越川睦夫という男の部屋で死んでいた身元不明の遺体が押谷道子という女性のものだと分かったが、二人の接点が全く見つからない。同じ頃、焼かれていたが絞殺されたホームレスの死体があり関連が疑われるが、それを繋ぐものがない。
 押谷の方を追っても、以前の友人の母親らしき人を見つけてその友人が明治座でやる演劇に関わっているためにそれを伝えにたまたま東京に出てきただけで、捜査に行き詰っていた。
 そんな時に加賀に捜査のことを話して、加賀はカレンダーの謎、越川と母が繋がっているのではと捜査に協力を申し出る。

 ここから先は上手くまとめられる自信がないのでちょこちょこっとで行きますが、もう綿密に織り込まれた伏線だったのだなと思います、はい。

 まず今回の事件の重要人物として角倉博美という人がいる。この人は押谷が会いに来た友人で、明治座で演出した芝居が公演中だった。そして、加賀が先生をやった剣道教室で面識のある人物。今回の事件でこの人の波乱の人生が紐解かれるといっても過言ではない。
 この辺は読んだ方がいいと思うからざっと行くけど、子どもの時に母が金を持って家を出て、借金だけ残された父子。二人は執拗な取り立てから夜逃げしてしまう。
 その先であった男を博美は抵抗する弾みで殺してしまうのだが、そこからこの父子の壮絶な人生が始まる。父が死んだ男になりすまし、自分は死んだことにして借金から逃れる道を選んだのだ。

 殺してしまった男は原発作業員でずさんな体勢であったこともあり入れ替わりは容易に出来た。父は原発を渡り歩きながら生きて、博美は施設で育った。
 その時博美は演劇に出会い、その道を行くのだが、一時とはいえ隙になった男が悪かった。その男は博美の小学生時代の担任でずっと支えてきてくれた苗村。これだけならいい先生だが、教え子に手を出しよった。いくら生徒の方から誘ってこようとも、妻のいる身で、しかも無理矢理離婚して博美と結婚しようとする男だった。

 博美の方は苗村のことは好きだったんだろうけど、東京に出てから演技の方を学んでいる時に来ちゃったとばかりに唐突に何もかも捨ててやって来た苗村には困惑を隠せない。
 東京で僅かな間でも会うことが父と子の大切な時間だったのに、この男は博美をつけてきて父が生きていることに気づいてしまう。父の存在は知られてはならなかった。だから、殺した。
 実は押谷も同じだった。明治座での初日、舞台を見に来た父に押谷は気づいてしまった。
 善意だったんだろう。あんな母親でも博美の母だと教えに来るくらいで、押谷はこの二人がどんな生き方をしてきたか知らなかったんだから。

 満足に会うこともできなくて、面と向かっては会えないからと場所――あらかじめ決めておいた橋で川を挟んで携帯で会話するという徹底してでも隠し通そうとしたのに。

 博美の父はもう疲れていた。支えであった加賀の母も亡くし、人を殺して逃げる生活にも耐えられそうになかった。だから、自殺しようとした。焼け死ぬことで博美に迷惑をかけまいとした。
 だが、博美はそれを拒んだ。父が焼け死ぬという死に方は嫌だったと言っていたことを覚えていたので公演している『異聞・曾根崎心中』のラストのように首を絞めて殺したのだった。

 最後に博美から渡される手紙に加賀さんの母のことが書いてあるのだが、加賀さんの母のことよりも博美の方に感情が傾いてしまうな。孤独に必死に生きてきた父にできた大切な人、その人に会いたいと思うが、もういない。ならばせめて息子に会いたいと思って接触をしてしまったのが今回の真相が晒される原因になったとしても後悔なんてしていないんだから。

 今回は加賀さんと登紀子さんにちょっと進展があって終わりでした。私は卒業の沙都子が好きなので複雑なのだが、もうあの二人が出会うことなんてないもんなー。まだツメの甘い加賀さんが精一杯隙になった感じが好きだったので、この二人がどう進展していくか楽しみにしてます。

 では、ここらで今回のお気に入りに行きましょうか。
 今回は加賀さんと松宮の会話にしようと思っていたのですが、最後の方の父子の回想シーンには勝てなかった。
 会うのはもう何年振りか。ちゃんと向き合うことはできず、同じベンチに座って他愛もないことを話すだけだったけれども、それで良かった。


 言葉のやりとりなんかどうでもいい――そう痛感した。こうして一緒にいられるだけで十分だ。


 ああ、なんでこんな風にしか生きられなかったのだろうか。申し訳ないが、全てを知らされた博美の母が自殺未遂をしようとも知ったことではない。ただこの人たちには幸せになってほしかった。
 楽になりたいと死を望んだ父の願いを叶えることも罪になってしまうか、娘の手で死ねることを喜んだ父の想いすらいけないものなのか。ならどうすればいいんだよって今思いだすだけでも泣いてしまう私はいったいどれだけ涙腺が弱いのか。
 でも、罪は罪だと頭では理解していても納得なんか出来そうにないんだ。




祈りの幕が下りる時
東野 圭吾
講談社 (2013/9/13)

posted by SuZuhara at 22:10| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする