「先輩、私のことを好きにならないと言うのなら、私と付き合ってもらえませんか?」
夢を見た。
蛇女――まんまラミアに喰われそうになって巣から脱出するために走る。響く怨嗟の声など知るかとばかりにただただ光を目指して走っているとぼそりと「行かないで」と寂しげな声で言われて思わず止まる。いずれ殺されるまで静かに暮らしたいだけだ、それ以外はなにもいらないのだと。
私は願いを受け入れたらしく二人の新居とやらに連れて行かれる。なにかに襲われたのか血塗れだったが人間の家。家主らしき人が家族を殺したと喚いているが、彼女を殺すのはこれじゃないだろうと処理をする。
蛇はにやりと笑いながら隣に立っている。いつまでも一緒に、と囁かれるそんな夢。
え、ちょっと待ってこれが初夢!? あまりの衝撃に兄貴に相談。「初夢が蛇は縁起がいいだろ」そっか、なるほどなー。
そんなこんなでスタートしますが、今年もよろしくお願いします。
■あらすじ
ミステリを引き寄せる体質を持つ矢斗春一は入学式で新入生代表の早伊原樹里に手渡した花束が目を離した隙に薔薇の花束に変わるというミステリに遭遇する。
ミステリ好きの早伊原は春一の体質に目をつけて恋人の振りをしてミステリを堪能しようとするが、春一の体質にはとある秘密があった。
■感想
ミステリを引き寄せる体質というのに興味があって手に取ってみた作品。けれども、大した謎ではなかったような。エブリスタの作品は以前にもう一つ読んでいますが、私にはあまり向かないようです。
だけども、えっちゃら行くよ感想。
あらすじに書いたような入学式の花束が変わる事件があり、樹里はぶりっ子で春一に近づきつつ告白、恋人、付き合っているという認識を獲得する。会長にだけはそんな誤解されたくない春一は花束の謎を解くことになる。
わりと回りくどいな、というのが第一印象かな。おそらく樹里の毒舌が売りなのだろうけど、まず語尾に「♪」をつけることが私は受け入れられない。「先輩♪」とか樹里が言う度にざわざわした。俺の潔癖さがまだ足を引っ張るのか。
要するにこれは春一を試した樹里の手品なんだよね。ミステリを楽しむために仕組み、そして春一がどう出るかを試していた。
春一でミスリードしつつ早伊原が解くというタイプのミステリで行くのか、とちょっとわくわくしたが、その後は結構想像通りだったかな。不可能カンニングの春一の推理にはがっかりだ。基本的に私は自分の評価が最下層にあるのだが、そんな私でも分かる穴の推理とかぐぬぬである。ミステリの流れもなんだかなーだしな。
春一の浮気を告発するメールは、なんでこいつらこんな面倒なことしてるんだろうと思うばかりである。
続く春一の過去もこの酔った正義感には共感できない。振り回されて落ちたクラスメイトもなんだかなーだが、きっかけを作った女は図々しくないか。君たちはもっと言葉を使え、会話しなければ伝わらないよ。春一の体質も若気の至りで作られたものだたのでなんと言えばいいやら。みんな自業自得なんだよねこれ。
おそらく続きは買いませんが、美少女後輩と毒舌合戦とか好きなら買いではないかと。私的には毒が足りなくて満足できないのだけども。
では、ここで今回のお気に入り。
春一が早伊原との偽装恋人関係を解消することを決めた時の台詞。なんやかんやと付き合ってきたくせに今になってやめる理由なんてただ一つ。
「君が、僕の許容範囲を超えたからだ」
この気持ちは分かる。
それがどんな些細なことであったとしても、許容できないことは無理なのだ。
だが、言わせてもらえるなら、過去に春一が振りかざした正義も私にとっては嫌悪すべき悪だがな。
謎好き乙女と奪われた青春
瀬川 コウ (著),赤坂 アカ (イラスト)
新潮社 (2015/2/28)