「話が終わることを、なぜあんなに熱心に望んだんだ? ハッピーエンドになる可能性なんてないことがわからなかったのか?」
基本的に私がこの時間帯、つまり日付けが変わる頃合いに起きているのは珍しい。大抵寝ている。てか、落ちてる床に。
だからなんだと言われればそれまでなのですが、この時間帯に無理矢理起きなければ、今の私はパソコンに触ることすら難しい状況にあるのだ。
――なぜか、犬が、私がパソコンを触ることを嫌がる。
うん、なんでだろうな、切ない声で鳴いてくる。試しに膝の上に乗っけてパソコンの前に座ってもらったが窮屈そうだ。ならどうすればいい? パソコンの前から退けばいいらしい。つまり、お前は床に座って本でも読んでろですね。
そんな犬が寝ている夜型の人間になろうと思っているのだが、ガキの頃から朝型人間だから前途多難すぎるんだ。
■あらすじ
妹はいたのか? いなかったのか?
確かにいたはずの妹が自分以外の認識から消え、いつの間にか世界からいなかったことにされてしまう。表題作『ウインドアイ』を含めた25作の短編集。
■感想
たまに手を出す海外小説。私が本屋でこれを手に取ったのは大分前で6月くらいだったんじゃないかな。あの本屋はそそられる海外ものが揃っていて楽しい。
ゆっくり読んでいたので時間がかかりましたが、そろそろ感想を書こう。
さて、この本はホラーと思われるかもしれないが、怖いというよりも興味深いという方が強かった。流石に全部が感想を書けないが、表題作の『ウインドアイ』は家の不思議な窓をウインドアイ(風の目)と呼び、そこに吸い込まれた妹がいなくなってしまい、世界からも消えてしまう。
確かにいたはずの妹が、自分以外の誰もがいないと証言する。正しいのは自分なのか、自分こそ間違っているのか。その自問は生涯彼が抱えることになる苦しみとなる。
むぅ、この嫌な感じはすごいな。いっそホラーであってくれた方が楽だが、この手の話は好きなので読んでいて楽しい。
私が一番好ましいと思ったのは『ダップルグリム』だな。
十二人兄弟の末っ子であった私は兄たちの権力に抑えつけられる日々が嫌になり、家を出て王の蝋燭持ちになった。それが以前よりもいいことなのかは分からない。
一度家に帰ると両親は亡くなっており、遺産として十二頭の馬を貰う。その中の一頭がダップルグリムだった。
初めこそ底辺から私が這い上がる話かと思ったが、段々その異様さに気づいてくることになる。全てはダップルグリムの望むままに動かされていることに気づくことになる。
誰も救えなかった王女を愛馬と共に救うという王道は胸躍るものだが、ダップルグリムが関わると凍るだけだ。終いには結婚話を渋った王も王女も家来も殺させられて、王という立場を手に入れただけ。それは自分の意志ではなく、ダップルグリムのための駒としての人生だった。
ああ、この話が好きだなぁ。
言葉で説明するのは難しいのだけれども、どう足掻いてもどうにもならない絶望は心地良いものがある。
あと『過程』と『食い違い』には純粋な恐怖を感じたな。
ホラー物を読み漁ってみたりしていますが、本当に怖いのは人なんだよな。
なかなか楽しい本ではありましたが、一つだけ気になったのが文中の重要なところが太字になっているところ。いかにも、ここが肝ですよ伏線ですよ、と親切なのはいいが気づく楽しみが減る。学生時代に教科書に赤線とか引いたと思うけど、たくさん引くと目障りなだけだと思うんだ。
正直なところ、『彼ら』とか理解し切れていない話は多いのだけども、この作者さんの本はまた読んでみたいので探してみようと思う。『遁走状態』は是非読みたいね。
では、ここで今回のお気に入りへ。
せっかくなので『ウインドアイ』から。妹がいなくなった彼が、母親との関係にも亀裂が入り、治療をきょうせいされることになっても妹の実在を信じ続けたのは、それが彼しかいなかったからだ。
もし彼が信じるのをやめたら、妹にどんな望みが残るというのか?
きっと彼は周りから狂ったと判断されていたに違いない。
それでも信じるという破滅的に不毛な感情が、無駄なことだと分かっていても僕は好きなのである。
ウインドアイ
ブライアン エヴンソン(著)
新潮社 (2016/11/30)
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