2018年03月14日

掲載禁止



 人が死ぬところを、見たくありませんか……。


 最近知り合った方がいろいろと本や映画を勧めてくれるのですが、それがどう見てもグロテスク一色で笑うしかない。
 こういうの話せる相手ができて嬉しいと喜んでいただけましたが、僕は別に好きなわけではないのである。僕はこの週末にグレイテストショーマンを観に行くのを楽しみにしている人間なのである。


■感想
 『放送禁止』でお馴染みの長江俊和監督の小説。『出版禁止』の方が有名でしょうが、ちょっと長編を推理する元気はないので短編を本屋で見つけてBUYしたぜ。
 前知識として私は放送禁止はほとんど見ていない。DVな大家族の話を一度兄に勧められて見て分からず、解説して貰った覚えがある程度。でも、子どもの頃だからほとんど覚えてないんだなー。


・原罪SHOW
 人の死が見られるというツアーの存在を知り興味を持ったジャーナリストが潜入取材を試みる話。都市伝説化と思われたそれが実在し、どんどんツアーを提供する者たちに迫っていくのだけれども……。

 普通に読んでいれば気づくだろうけれども、時系列がおかしい。そして、主人公が最後だけ違う。初めは女性なのに、一人称が僕とか妻とか、旧式のカメラを愛用するとか気づくのは難しくない。
 なら、章を区切るように□で囲まれた文字は何か。
 これは恥ずかしながら時系列順に並べるまでは気づかなかったのだが、Ki→起 Show→承 Ten→転 K2→結になってる。
 ぐいぐい読み進めた転と結。最後に承でネタばらしは繋がった感が爽快でした。
 女ジャーナリストと一緒に死のツアーを追っていきながらも男ジャーナリストと同じ道を辿っていると知った時の恐怖はきついな。Showが承ならば、原罪SHOWはゲンザイショウ→現在承とも取れるわけで、彼女はきっともう殺されているんだろうな。


・マンションサイコ
 別れた男が忘れられずに天井裏に隠れ住むことにした女の話。初めこそ悪質なストーカーでしたが、男が新しい女、そして結婚と進むことによって話が変わってくる。
 しかし、この話の問題はそこではなかった。

 親の遺産を食い潰しての天井裏生活。正直、ここまでできるとほど誰かを好きになれることには憧れますが、ストーキングがプロすぎる。浴槽の天井とか知らなかったよ。
 天井裏に住み、穴まで開けて元彼の生活と一体化し、新たな彼女とのベッドシーンも何もかも全て彼女は見ていた。
 けれども、途中で相手が変わっているとは気がつかなかった。

 元彼が結婚した相手が夫を殺そうとしていることを知ったところで一度話が区切れている。
 赤ちゃんの母親どのが天井裏に侵入した描写がちょっとあれとは思ったんだけど、まさか月日が経っているとは思わんさ。
 元彼が殺される一部始終を見た彼女は彼を求めて天井裏に住み続け、次の入居者の家族も見ていた。そして、赤ん坊を奪い、生きていくことを決めるというサイコだったなー。


・杜の囚人
 これは何というか映像作品で見たかったな、と。
 二人の兄妹の暮らしを妹が撮影しているのだが、この二人は兄妹などではなく、男が忘れている殺しを思い出させるために妹の振りをして記録しているというもの。
 なんだけど、実はこれは逆で殺したのは妹の方。しかも、実は男。

 実にこんがらがってしまって俺の理解は追いついていませんが、宗教組織を作った教主・越智修平は妹の振りをしていた男でもなくて、兄貴の方も殺したのは本当の仇じゃないというなんとも後味の悪い話でしたなー。


・斯くして、完全犯罪は遂行された
 これはなかなかに面白かった。洗脳洗脳のオンパレードで、何が本当の目的なのか考えるのが楽しかった。

 十五年前に親友だった男に奪われた彼女が戻ってきたのだが、彼女は洗脳から解放されたのではなく愛する夫のために死ぬための計画を遂行していた。
 元彼への料理に薬を混ぜて興奮状態にさせてDVの事実を作り殺されるように仕向けるというもの。男ももう冷静な判断ができないのか、何にも代えがたいとまでに愛していたはずの女をミンチにして公園の鯉の餌に。
 女が仕組んでいたことで犯罪は露見してしまうが、裏にいるのは女の夫。自分をバカにしたかつての友を排除し、金を手に入れるという目的なのだろうと思うが、そうするともう一人登場人物が余る。夫が見つめていた紫音という女がいる。
 金を手に入れた夫は紫音に促されるままに首を吊る。

 斯くして、完全犯罪は遂行された。


・掲載禁止
 過激な活動が噂される『品格を守る会』の代表タナカに密着取材をする女の話。初めはタナカの異常さに圧倒されるが、実はこれはやらせだということが分かる。
 ここまで読んでいれば、そう言いつつも実は本物なんでしょうということは想像できるものですが、これは分かってても怖かった。そこから二転三転としていくわけですが、まさか本物の代表が女の方だったとは。

 原罪SHOWでもそうでしたが、マスコミやジャーナリズムに対する敵意というか殺意は怖いわな。
 お気に入りってわけじゃないんだけど、やらせと仕組んでいたはず相手にこんなことを言われた日には心臓止まる。


「これはやらせなんかじゃない。……残念ながら、俺とあんたは違うんだ」


 二転三転と転がる様子は楽しくもあり、後半に行くと少々疲れもしていました。出版禁止も読みたいところですが、僕としては検索禁止の方が好きそうなので本屋で見かけたらちょっと買ってみようと思います。







掲載禁止
長江 俊和
新潮社 (2018/2/28)
posted by SuZuhara at 22:26| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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