「どんなに異常な性質も 観客の前では奴をスターにする武器だ」
大切にしてるんですね、と言われて驚く。
私は本にしろゲームにしろ、財布に鞄にしろ、それがなんであれ自分の手にある以上は大切にするのは当然だと思っていたのだが、こういう言い方をされるということは普通はそうじゃないってことなんだろうか。
それなら普通じゃなくていいや。変わり者は変わり者らしく、今年は地道にちまちまと自分が感じる感覚を追求してきたので、もうちょっと深掘りしてみようと思う。そう、怖いという感覚を探している。ITリメイクでは子どもの頃のトラウマは復活しなかったけれど、シャイニングの続編であるドクター・スリープならと望みを託して年末はできる限り映画に行くんだ!
■あらすじ
夜凪景は役者になるために受けたオーディションで落ちてしまうが、映画監督・黒山墨字に見出されることになる。景が自身の過去を追体験して役を演じるメソッド演技で役そのものになる迫真の演技を見せるが、自分の知らない感情は演じられず、役になりきってしまい演技を制御できないという未熟さがあった。
墨字は景に経験させることによって自分が撮りたい役を演じられる役者に育てようとしていた。
■感想
呪術廻戦好きならアクタージュもオススメだよ、と言われたので全巻買ってみた。結果、めちゃくちゃ面白かったよ! でも、呪術廻戦とは全く毛色が違う漫画じゃんかw 役者ものの物語は読んだことなかったと思うんだけど、やっぱり知らない世界は面白いなー。景のちょっと変わっていて距離感分かんないところがすごい好きなんで読み続けたいと思います。
さて、ざっくり説明。
あらすじに書いたように役になりきってしまう景は演技力は高いが危うすぎて、事務所のオーディションに落ちてしまう。しかし、審査員として入り込んでいた墨字がその才能を見出し、自分の事務所に引き入れ、仕事を撮ってきてた景を成長させていく。
エキストラの仕事はおおっと思ったな。景として町人Aになると殺される女の子に妹を重ねてしまい黙って見ていられずぶち壊しちゃうのに、墨字に「お前の家族は別のところにいる。この時代ではお前が何かすれば一族郎党殺される」と言われただけでシーンを食う程の演技を見せる。
これ、墨字は楽しいよな! どんどんどんどん良くなっていく景を間近で見られて、自分が望む俳優になっていく様が見られるなんて楽しくないはずがない。
次は映画出演。景が落ちた大手事務所・スターズの花形俳優が集まった殺し合い系映画『デスアイランド』の一般出演枠をオーディションで勝ち取るところから始まる。まあ、オーディションも一筋縄じゃなかったんだが。
そこでスターズの天使・百城千代子と共演することで、千代子から自分を俯瞰する、どう見られるのかどう撮られるのかという意識を手に入れる。相変わらず役にはまりすぎてしまうので、クラスメイトが殺されるシーンで吐いちゃってゲロ女とか呼ばれちゃうがw それでも、吐いたところは映っていないのでOKになってるんだからすごい。
しかし、景の役は最後に千代子を庇うというシーンがあるのだが、千代子自身が分からない、千代子を友達に思えず一所懸命仲良くしようとする。ここの「ここに座っていい?」「うん、もう座ってるね」「千代子ちゃんのこと、千代子ちゃんって呼んでもいい?」「うん、もう呼んでるね」の流れ好きw
千代子の方が景を遠ざけているのでここでは友達にはなれないのですが、一緒にオーディションを受けた友達への感情を集めて千代子=役・カレンへの想いを作り上げて演じるが、その時に千代子が常につけている仮面を知ることになる。
その後、台風の悪天候から一発勝負のクライマックスシーンでの景と千代子は圧巻ですな。漫画原作映画でのオリジナルキャラとか地雷でしかないが、これは面白そうだと思いました。
千代子との関係は友達じゃないかと思っていましたが、ちゃんとラインも交換している良き好敵手。なお、景はめっちゃ千代子に懐いてますw
映画後は演劇へ。
景は演技の幅を増やすために墨字に明神阿良也の舞台を観に行く。そこに千代子を誘うが、当日ドタキャンで代わりに来たのが星アキラ。一話から出ていて、スターズの社長・星アリサの息子で俳優のウルトラ仮面。
いろいろあって熱愛かとか言われるが景はアキラに恋愛対照的な興味なく、阿良也のいる舞台演出家・巌裕次郎の劇団天球に入れるようお膳立てしていた墨字によって景も次の、そして巌最後の演目・銀河鉄道の夜でカンパネルラ役に抜擢される。
ここで阿良也の言っていることは感覚的だし、景も変わっているから分かりにくい。無茶振りのワンシーンを演じたことで受け入れてもらうことには成功するのだが、景の演技はリアルで精密だが舞台としては分かりにくい。感情を出せというのに悩んでしまうが、そこでウルトラ仮面がヒントをくれる。
ま、アキラも熱愛報道をもみ消すために劇団入りして共演ってことで景に振り回されることになるんだけど。阿良也に自分の感情を喰われ、千代子に振り回されながらも役を掴んで舞台稽古へと進んでいく。
この天球のメンツがすっごく好きなんですよ。亀のダサさってのは舞台俳優には欠かせないよな。私はそんなに見に行く機会はないけど舞台好きなので、ついついこういう人ばかり観てしまう。
何度も言ってるけど、舞台の良さは映画のカメラと違って観る人の数だけ視点があることなんだ。主役そっちのけで舞台袖観ている人だっている、主役の背後でめっちゃ面白いことやってる俳優さんがいる、それが面白いんだと思っている。
だからこそ、語られる巌の寿命と舞台の感性は別れに繋がっていてつらかったがね。
銀河鉄道の夜ってちゃんと読んだことがないのですが、それでも景のカンパネルラは神がかっていました。これはパンフ買って帰るわ絶対。千代子たちも見に来ていて、アキラの才能開花と阿良也の真骨頂、景のお披露目といった感じか。
初日に巌は倒れてそのまま亡くなってしまいますが、墨字たち大人組が抱える葛藤も少しずつ出てきて楽しくなってくる。
巌の告別式で景を悲劇のヒロインとして世に売り出そうとする男・天知心一が現われますが、墨字さんガードと景自身が拒否したことで一端引き下がる。けどこいつは怖いですな、ドッキリなんて言いながら作らせた週刊誌の記事は本物で撤回できるだけの金がある。芸能界怖いところよ。
巌の死に寄り添い、死者であるカンパネルラを演じた景は少し戻れなくなっていてオファーはどんどん来るのに墨字は全部断り、学校で友達作ってこいと言う。
距離感おかしいから作れないのだが、映研の吉岡と一緒に短編映画を作るところから始めることに。そして、まだ自分と幼い弟妹のことでいっぱいいっぱいだった頃に無碍に扱ってしまっていたクラスメイト・朝陽ひなと和解して映画作りをしていく。
様子を見に来たアキラが安心したように、ここは学校で景はただの高校生だから、芝居をしても戻ってこれないなんてことはなく自分を確立させていく。
だが、文化祭で上映するはずだった映画は天知が景の特集を組んだことで客が殺到してしまい中止に。悔しい思いをしていたところ、ひなと同じく映研の幽霊部員であった花井が夜の校舎に映写する。
花井はよるあると言ったら失礼だが、怪我でドロップアウトした元高校球児。自分にとって生きる目的だったものを失い腐っていた花井はもう何に対しても頑張れない状態だったが、景たちが作った映画を上映するために頑張ってくれたことに礼を言うと初めて気づいたような顔はすごく良かったな。
エンドクレジットは勲章みたいだ、ってひなもいっていましたが、それはすごくよく分かる。自分もいつか関われたらと思っていたが、その夢は去年叶っていたりする。喜びや気恥ずかしさもあったがそれ以上に圧倒的な後悔があった。だって、自分ほとんど何もしてないんすもん。B'zの『ケムリの世界』って曲にも「全部自分がやったんだよと 叫べるおシゴトしましょう」ってあるんだが、たぶんきっとそんな感じ。全部だなんて力量ないけど誇れるほどやってないという自覚もあるから悔しいんだろう。
この辺の消化不良感を今年は抱えていたのですが、この気持ちをうっかり吐露しちゃったらカメラを肌身離すんじゃねぇぞと笑顔で言われたので荷物最小限主義者としてはうぇへぇなことになったのだけど。
脱線した、閑話休題。
学校の意向を無視して見事に停学になった景だが、役者だけが自分の定義じゃないことを知ったことでついに墨字さんが景を撮ることに。
新宿に着いた電車の中からヘッドホンから流れる音楽に合わせて飛び出す景を墨字が追いかけ撮っていく。そのMVで景は一気に知名度を上げ、千代子とダブルキャストの舞台に。
しかも、千代子の相手は阿良也で演出家は墨字という完全アウェイである。景の相手も世界的映画俳優・王賀美陸なのだが、癖がありすぎた。しかも舞台自体が天知の息がかかったものだから裏が怖いのだが、現在出ている8巻では景たちの演出家・山上花子と出会い、舞台の演目・羅刹女を掴んだところでおしまい。12月には9巻出るようなので楽しみにしような!
ふー、さすがに8巻分の感想となると駆け足ですが、めちゃくちゃ面白いので是非一読を。キャラがどいつもこいつも嫌いになれなくて楽しいぜ!
では、この辺で今回のお気に入りへ。
文化祭の校舎上映中に景が花井に言った言葉から。役者としての自分しか見ていなかった景が、今回の映画制作で気づいたのは芝居に出会わずにいたら高校生だった自分もいたということ。そういうもう一つの普通があると気づいたと語るシーンから。
「きっと私達は何にだってなれるんだわ
だって私がお芝居に出会ったのも偶然だったから」
星アリサの危惧はまだ完全には明かされていませんが、景はこの高校生活と墨字がいれば大丈夫そうだ。問題は自分を広げるために曲げてきた千代子の方だよなー。今回、墨字が星アリサの指名で千代子側についたのでどうにか不貞不貞しくも美しい千代子の良さを失わずにいてくれるはずだと信じています。
アクタージュ act-age 1〜8
マツキ タツヤ(原作) 宇佐崎 しろ(漫画),
集英社(2018/5/2〜2019/9/4)