俺は、音を盗む泥棒である。
ちょいと前にやったゲームで「コンビニではついつい買いすぎる」という台詞があったが、私という人間は水くらいしか買わないのでその辺ちょっと分かんなかったりする。
キャッシュレス決済も増えてきたけど、正直面倒くさい気が勝つのでさらに使わなくなっているのだが、本屋と映画館は完全対応していたりもする。
要するに、自分と関係ないことにはとことん対応できないタチなんでしょうな。
■感想
さて、今回はアルバムの感想なのだが、小説つきというちょっと変わったものなので、変則的なスタイルでいこう。
私がこのヨルシカというバンドを知ったのは、ご存じ俺と相性の悪いアレクサくんのおかげだ。
「アレクサ、○○かけて」とお願いしたところ、「ヨルシカの楽曲をシャッフル再生します」と知らない音楽を流し始めた。私は以前にも全く同じ感じでオススメのブリトニー・スピアーズを聴いたから今回もそのまま聴いてたんだけど、一曲目が『ただ君に晴れ』って曲がすごくよかったんだ。ちゃんとアレクサに曲名聞いて、メモを残してるからな。
他は『ヒッチコック』とか好きですね。8月上旬に仕事ですげー追い詰められていたとき、ずっとかけてたくらい。
うん、最近はもっぱらこれしか聴いていないほどに好きになったから、発売するというアルバムも買ってみるか。あれ、限定版に小説とカセットテープがつくらしい。よう分からんが、小説つくならこっちにしよう。と、そんなこんなで購入した次第です。
ちゃんと俺、発売日に買ったんだぜ。そして、案の定、感想は今頃なんだぜ。
だから、バンドについては全くと言っていいほど知識がないんだが、ボカロPでコンポーザーのn-bunaさんと女性シンガーsuisさんによるバンド。ボーカルの声は力強くて音楽自体もこう耳に馴染む曲なのだが、歌詞がとてもよかったのでこれからはちゃんとチェックしていきたいと思う。
収録されている曲では『爆弾魔』が好きだな。
初めは君を壊したいとか消したいとか嫌いなように言ってるんだけど、本当はそうじゃなくてなによりも大切なんだよ。最後の君だけを覚えていたいんだというのが、すげー分かってしまうんだ。
今回は初回限定盤を購入したのだが、これには小説「盗作」と、作中に出てくる少年が弾いた「月光ソナタ」が収録されたカセットテープが付属されている。
これはアルバム全体で表現されている音楽泥棒の話。
音楽を盗むというのは概念的なものなのかと初めは思っていた。つい最近、気づくとBeatlesのいない世界に行ってしまった『イエスタデイ』を観たばかりだったのもある。
でも、そういう話ではなく、売れている曲好まれる曲のコード、リズム、メロディを分析して曲を作るという、「あ、この曲あれに似てる」程度の感覚しか抱かせない盗作なのだろう。作中で音楽泥棒も言ってるけど、たった十二音階のメロディなんだからこの長い歴史で似ないなんてことの方がおかしいんだ。
だからこそ、音楽泥棒のやったことはあり得ないとは言えないんだよな。
小説は音楽泥棒と少年の交流から自白までの話なのだが、作中に音楽泥棒の自白とも言えるインタビューが挟まれる。盗作されて出来た音楽に罪はない。罪は作ったヤツにあるという感じなのだが、これは言い得て妙だなと思った。
例えば、麻薬をやったアーティストのCDは販売禁止になる。売れればアーティストにもお金が行くからな。
でも、作品自体に罪はない。本当だよ。
とある芸能人が「麻薬を使ってやった演技はドーピングのようなもの」と言ったが、記録を競うわけではないのだからそれとこれとは話が違う。
例として麻薬を出したが、別に推奨派ではないよ。僕は小市民ですから。
なにが言いたいかというと、作者が演者が罪を犯したからといって奪われる作品が多いのはつらいなって話。
『盗作』の曲の歌詞は音楽泥棒そのものなので読み終わってから聴くと彼と皮肉と空白感がより伝わるので感慨深いですが、改めて1曲目から聴くと『音楽泥棒の自白』なんかではレコーダーで記録してんのかなとかいろいろ想像できて楽しい。
概ね満足なアルバムですが、ちょいと苦言もある。
まず本のような装丁は見た目はいいが、如何せん、取り扱いにくい。本として読むには厚くて持ちにくいから、取り外せるようになっているとよかった。
ただ、カセットテープをしまってある部分もちゃんとページになっているのは嬉しい。ここだけ箱型だったら興醒めなことこの上ないもの。作中で音楽泥棒が作った作品はこいつなのかなって想像できるのもいい。
カセットテープはいまいち良さが分からないかな。
CD、小説、カセットテープと3つの媒体で世界観が表現する試みはいいと思うが、時代的に少年がカセットテープを使うかなとも考えてしまう。国際的祭典がオリンピックなら、ここ最近のことかなと思っていたのでちょっと認識がよう分からんことになってしまったから。
まぁ、限定版のお値段お高いのはこの辺なんでしょうけど。
もし少しでも気になっている人がいたら、サブスクでもなんででも一度聴いてみてほしい。きっと気に入ってくれると思うぜ。
では、ここらで今回のお気に入りへ。
音楽泥棒である私が少年に自分の少年時代のことを話している一文から。同級生を殴った後どうなったのか、と聴かれて私は「俺に関わる奴はいなくなった」と言う。
あれは良かった。人間関係が白紙になった。何かが壊れる瞬間は美しい。それが自分のことなら尚更だ。
彼に対してはなんとも言えん。父親のこと母親のこと、奥さんのこと……それはとても共感できるなんて言えないが、満たされない感覚だけは分かってしまう。
どんなカタチであれ満たされる瞬間を、それが破滅であっても求めてしまうのはなんでなんだろうね。
盗作(初回限定盤)
ヨルシカ
Universal Music (2020/7/29)