2022年04月09日

フーガはユーガ



「お前も忘れられないんだろ。あの時のこと」


 なんかものすごーく久々に本を読んだ気がする。いや、もちろん久々なんてことはなく主には漫画だが本は読んでて今年に入ってからは電子書籍で30巻一気買いした小説を読了していたりするんだけど、やっぱり本として読むのは久々ですげー楽しいのだった。
 かつてないほどにお久しぶりになりましたが生きてます。今はちょっと集中力が続かなくて一気にがっとやることができないのでいろんなものを平行してやっているのですが……こういうところ器用貧乏なんだよなぁ。


■あらすじ
 双子の兄弟・優我と風我には誕生日にだけ二時間毎に入れ替わるという不思議な現象が起こる。身体ごと、場所を入れ替わってしまうこの現象を不思議に思いながらも、それは彼ら二人の家庭環境を変えるほどの力はなく
、誰かを救えるような劇的な力ではない。
 それでも二人はこの現象を利用して、一人の女の子ために、とある母子のために、そしてずっと胸に引っかかっていたかつて少し擦れ違っただけの家出少女を殺した犯人に立ち向かう。

 
■感想
 電子書籍では結構読んでいるが、きちんと本を買って読むなら何がいいかと考えて伊坂さんの本がいいなって思った。
 今作『フーガとユーガ』はもっと前から気になってはいたんだけど、その時に買っても積む気がして手を出してなかった。だから今回はタイミングが良かったんだろうな。まぁ、何度も言ってるが私の兄貴が双子なのでいまいち双子ものって手を出しにくいんだよ。

 双子が誕生日の一日だけ、二時間後とにお互いの身体が入れ替わる。これは所謂「私たち入れ替わってるぅ」ではなく、お互いの身体の位置が入れ替わる、瞬間移動である。
 正直、こんな能力で何ができるよって思ったね。そうやさぐれたくなるほど優我と風我の家庭環境はひどい。ちょいと1年ほど前にネグレクトについて囓ったのだが、どんなに詭弁を弄そうとも暴力で従えるという行為は酷い以外のなにものでもない。……もっと酷い状況ってのもたくさんあるってのがキツいが、それこそ風我が言うように、簡単に解決しないことは俺たちのほうが分かっている、なんだよなぁ。

 話はファミレスで高杉という男と優我が話しているところから始まる。高杉は優我と風我が入れ替わっている映像を手に入れたことで優我に接触してきたわけだが、そこで優我は自分たちの過去を話すことになる。

 過去の話は大きく分けて3つ。
・優我と風我の家庭環境について。
・小玉について。
・ハルコとハルタについて。

 最初のは簡単、ほぼ育児放棄された優我と風我の家庭環境と入れ替わりの瞬間移動を自覚した時のこと、それが二時間置きに起こること、1年に1回誕生日――彼らの親は出生届を適当に出したのでおそらく誕生日だろうと思われる日に起こることを知っていく。
 他にも細かいこと、移動する時は少しの間周りの時間が止まるとか、持っているものは一緒に移動するが、車などに乗っていても一緒に移動するわけではないとか分かっていくわけだが、それが分かったところで暴力を振るう父親に立ち向かえるわけじゃなかった。
 母は姿を消したが、二人は父親の元にいるしかなくなった。岩窟おばさんっていう理解者、グレーだが頼りになる大人がいるが、その状況から救い出されるわけじゃない。

 双子はこの入れ替わり現象を利用して、学校で虐められていたワタボコリと呼ばれる同級生を助ける。義憤からではなく怒りから。いじめという自分よりも弱いものに行われる理不尽な暴力に対する怒り……なんかこういうとチープだが、いじめられている姿から父親と自分たちの関係を重ねてしまったことからの行為だったけど、

 この日の出来事は双子にとって大きな意味を持つことになる。

 この後にワタボコリと一緒に出会った小学生の家出少女のこと。風我が面白半分でお守りなんて言って渡した血で汚れたシロクマの人形を抱えた少女が車に轢かれて死ぬことになる。
 それもわざと。
 しかも何度も。
 逃げられないように縛りつけた少女を何度も轢いたのだという話を聞くことになる。

 このことは優我と風我にとって根深く残る事になった。

 次は小玉という少女。
 優我が高校生、風我が岩窟おばさんのリサイクルショップで働いていた時の誕生日、入れ替わりの時に出会った少女。
 風我はちゃっかり彼女と付き合うことになるのだが、小玉には秘密があった。自分たちと同様に家に問題があるのだろうとは双子も感じていたが、小玉の親は既に折らず、親代わりである叔父にショーを行なわされていた。苦しむ女の子の姿を鑑賞するショーで小玉はどでかい水槽に落とされることを繰り返しやっていた。

 ……うわぁ、この手の輩がいることは知っている。海外映画によくある秘密クラブである。双子は小玉を助けるためにこのショーに乗り込むのだが、彼らの力は入れ替わるだけでなにかを変えられるわけじゃない。
 入れ替わりで武器を持ち込んだ風我が水槽を壊しめちゃくちゃに暴れるってだけだったけど、幸い上手くいった。
 ただここでは岩窟おばさんにお金を借りるシーン、岩窟おばさんの信頼を裏切るようなことになったってもやらなきゃいけないってのがつらかったな。

 ハルコとハルタは優我が大学生になってバイトのコンビニで知り合った母と子。ハルタが捨てた雑魚カードに意味を持たせたいって優我はカードゲームを始めてこの親子と知り合っていくが、初めハルコを姉だと思っていた優我に下心がないはずない。風我と小玉と一緒にわっくわくで話を聞きたいね。
 優我は大学生になって一人暮らしをして父親の元から離れていたが、バイト先に来られてハルコたちのことを知られてしまう。過去の家出少女を思わせるような事件が再発し、ハルタが姿を消す。父親の家にハルタを探していたはずのハルコがいて――とまぁ、胸クソだからか書かないがこの父親は本当にどうしようもない。
 運動神経は風我で頭の良さは優我なんて役割になっていて手が早いのは風我の方だったのに優我は父親を殴っていた。

 親子とはこの一件で疎遠。
 入れ替わりで父親をバイクで追った風我は死んだと優我は話す。高杉にはフェイク画像を利用して接触したのだと。
 過去の轢き逃げ犯が名前を変え、そしてまた犯行を繰り返していることを知ったからだった。

 ワタボコリはそんな日に常磐くんと再会した。お前が結婚して子どもが生まれるとか嘘だろおおおと思ったが、ここは重要、なるほどなーに繋がる。
 ワタボコリにとって過去のクラスメイトとの邂逅はなんだか気になるくらいだったが、そのクラスメイトが頭を殴られて連れ攫われたら追いかけるしかなかった。
 そして、セキュリティ関係の仕事をしていたこともあって連れ攫われた豪邸に侵入していくのだが、そこは元小玉の家で、汚れたシロクマの人形。頭から血を流す優我はどうしてワタボコリがここにいるか分からなかった。分かるはずがねぇのだよ、優我には。

 猟銃装備の高杉にワタボコリが撃たれて優我も既に瀕死。
 でも、優我は何度も言っていた。僕の話には嘘がある。

 そして、跳んできた風我が見たのは事切れた優我の姿だった。
 死んだら瞬間移動は行なわれず、最後の瞬間移動。優我は風我がいつもやっていたように親指を立てていた。行け行け、と。

 つまり、優我は風我が死んだという嘘をついた。
 生きていた風我は瞬間移動で跳んだが、絶命のタイミング的に優我は飛べなかった。
 ここから風我はいち早く状況を理解し、理解できない高杉をボコるわけですが、このシーンは説明するよりも優我視線で進むことが面白い。死んだ優我が状況を俯瞰していて、その後のこと――風我と小玉に生まれた子どもたちの時も優我は一緒にいる。
 優我――この時は風我だったのだが、ワタボコリを巻き込もうとして巻き込めなかったのは小玉も妊娠していたから。だから優我はワタボコリの存在を知らなかった。新幹線が止まって動けず、二人は側にいなかったんだ。

 最後、風我は大きくなったハルタに会う。
 ここでハルコのことを詳しく聞かない風我に優我が不満げなのはすげー面白いのだった。

 なんとも言えない読了感のある本でしたが、たぶん『バイバイ、ブラックバード』と同じくらい好きですね。文庫版は小玉のショーがマイルドになっているだと……? 単行本も買ってくるか、なんて思うくらいには好きですな。
 あとがきにもあるけど問答無用のハッピーエンドではないけれど、優我と風我のただ兄弟・双子だからでは説明できないような絆が良かったんだろうな。特異な力を持ったってなんの役にも立たないかもしれない。それでも、なんとかしようと足掻いた姿がこの二人を好きにさせるんだろうな。

 ではここらで今回のお気に入り。
 久々の読書だったから付箋を忘れて記録できてないんだが、強いて上げると優我が死んだ後の風我とワタボコリのやりとり……なんだけど、長いので抜き出しはなし。

 死んで俯瞰している優我が風我に、自分は手遅れだからワタボコリの傷を見てやってくれ。お礼を言ってくれって思うだけで風我はそれを当然のように行動するするのが、ああいいなぁって思ったのでした。
 






フーガはユーガ
伊坂 幸太郎
実業之日本社 (2021/10/7) (2021/9/16)
posted by SuZuhara at 21:16| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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