この体が動くうちに、未来の三澄の力を借りよう。今の俺にはそれしかできない。
人間ドックに行ってきた。健康に気を使う意識高い系ではない。単純に去年以降からの胃のせいだ。胃カメラを飲むのは苦痛でしかないが、体内を見るのはあまりない経験なのでよく見る。
「ここ、綺麗でしょ?」分からん。「ここも綺麗ね」分からん。「でもここから激しい症状が見られますね」全然分からん。
たぶん、というか確実にこれは引っかかってますね。
■あらすじ
万里部鉱が卒業研究の単位欲しさに一石教授の研究室に訪れると、そこで出会った17歳の特別招聘教授・三澄翠と衝突する。鉱の物理学に対して情熱のない態度と未来と交信するリングレーザー通信機の起動が重なった事もあるが三澄は終始否定的な態度であり、鉱も最低限の関わりで済ませようとするのだが、この研究所での鉱の仕事はあまりの集中力でオンとオフの差が激しい三澄翠を起こして連れてくることだった。
早くも鉱が後悔しているとそこに未来からのメッセージが届く。タイムスタンプは2031年の三澄翠。
『わたしとあなたが恋をしないと、世界は終わる』
■感想

去年勧められて手に取った『白昼夢の青写真』の緒乃ワサビさんの小説。……ゲームはまだプレイしきれていない。すももの話はやったんだよ。すももが可愛いというか、あの三人の関係好きすぎて次に行けないと言うか……switchでノベルゲーとか重すぎて続かんのよ。
この本を読み始めた時シュタゲっぽいなと思ったのだが、読み終わってもシュタゲっぽいなと思う。あっちは本当に世界を救う話だが、こっちは個人の主観としての世界を救う話。僕は好きです。自分の主観がハッピーでないのなら、世界なんて滅亡モノでいいんですよ。
さて、僕は生粋の文系なので物理学云々は完全に流し読みをしているのであしからずですが本編に行こう。
潔癖症で心配性な万里部鉱は卒業単位欲しさに一石教授の研究室に訪れ、そこで三澄翠に出会う。初めっから喧嘩腰に噛みついてくる翠だったが、まぁ積み重ねた大事な日に部外者が入ってくるのは面白くない。でも、鉱からしたらそんなことは知らん。
秘密厳守の契約にサインして画期的なリングレーザー通信機の機動実験に立ち会うことになるが、これは所謂Dメール的なものと認識した。でももっと規模のでかい、今日この時間を起点に過去にも未来にもメッセージが送れるというもの。この存在を知っている有識者たちがメッセージをやりとりするってことなんだろう。
鉱同様そういうもんかくらいで納得していると、物理学に熱心じゃない鉱がここにいる理由を明かされる。
このすごい装置を作った三澄翠は天才だけど、実験以外はからきしである。だから、出なきゃ行けない会議とか平気で寝過ごす。君はアラームだ。あらゆる手段を用いて三澄翠を起こせ、と渡される三澄ハウスキー。わーい、恋が始まるね。
そして、偶然にも登録した鉱の網膜が認識されて未来の三澄からも恋しちゃいなよー!という指令。これは、恋愛小説だ、とここで認識したのだったw
恋に至るまでの経過は丁寧に描写されるが、びっくりするほど三澄がちょろい。
潔癖な鉱からしたらゴミ溜めな三澄の部屋に入って起こすというのは卒論書いた方がマシレベルの苦行だし、三澄は実験に関係ないことに一ミリも労力使いたくない。表紙の三澄が美人すぎるんだが、これで汚部屋の主ってどういうことよ。
二人は相性が合わないかのように喧嘩しまくり、鉱的にこいつと恋するとかあり得ないとなるが、心配性でもあるから「世界が終わる」とか言われて気になりまくる。そんな鉱に未来三澄から三澄翠を落とすためのワンポイントアドバイス。
ちょっと早いけど、ここが今回のお気に入り。
『わたしの部屋を片付けてあげて』
「……勘弁してくれよおおぉぉぉぉっ!!!」
笑った。潔癖症に、というか他人のテリトリーを片づけるってなんとも勇気がいるもんよ。
鉱は律儀な人間なので次の日から片づけに入る。一日じゃ終わらない。三澄は興味なさそうに許可するが、鉱の疑問にはちゃんと答えるからそう関係は悪くない。
未来三澄にも確認しながらなのが面白い。向こうからしたら過去にあったことだからね。Goodlack。
三澄の家に実家からの仕送りがあったことから発掘したキッチンで料理をしようとすると、三澄は起きて鉱が来るのを待っていた。この辺りでだいぶあれである。
そんで持って作った筑前煮でご飯を食べさせる頃には完全に落ちてたと言える。三澄はこの筑前煮を写真にとってあとで一石教授たちに自慢してるからね。生活力のない奴は胃袋掴まれたら弱いんだ。いや、俺も筑前煮なんて作られたら惚れてしまうなー。筑前煮が好きなんですよずるすぎる。
しかし、ここから暗雲。
鉱に未来三澄以外からもメッセージがくる。そのあいては二人の関係者を名乗り、三澄とのことをいろいろ聞いてくる。
三澄は三澄で通常運転。信頼度が上がったことで以前に口にしただけでもブチ切れたHCL PROJECTについて教えてくれる。その名もハッピーキャンパスライフ、普通の大学生活を送りたいの。
要望を受けて普通の大学生活へ。
特別招聘教授という天才は大学生活なんぞ送ってないから学食などを体験していき、自分が担当している講義、パワーポイントと合成音声のものを受けに行くことに。
天才の講義は勉強の領域で詳しく知りたいなら参考書を読めというもので質疑応答はないという三澄に普通はあると鉱が言うと、その場で合成音声使って質疑応答を受けつけはじめる。普通の枕詞があればなんでもやってくれるぞw
しかし、なんつーかここで頭に過ぎるのはシュタゲの序盤、紅莉栖の講義なんだよね。タイムトラベル理論にもなるから。どうしても比較しちゃって、オカリンと紅莉栖のバトルは面白かったなと思ってしまった。
続いて鉱のバイト先や家に行って母親に挨拶と天才は確実に行動をしていたw これは冗談だけど、いい感じというヤツである。
ここら辺ではもう鉱自身も三澄に好意を持っていた。
でもやって来るのよ、起承転結の転である。
三澄から泰兄と呼ばれ、一石研究室のスポンサーである二階堂が僕は三澄のことが好きだからアラーム役を代わってくれ、と。
三澄との接点を取り上げられてグラグラに揺らいでしまった鉱は未来三澄と話そうとするも、網膜認証も取り上げられて部屋に入れない。むしろ、エラー認証が何度も起こるので三澄が飛んできたほど。
けれど、三澄には言えない。二人はまだ恋愛はしていない。
勝手に距離取られて起こる三澄は可愛い。HCLプロジェクトは個人間での約束だって必死に繋いでおる。なんで鉱は気づかないんだ。
三澄と二階堂が仕事で席を外したあとで鉱は一石教授にこれまでのことを全て話す。実に面白い、と一石教授はホワイトボードにこれまでのことを纏めてくれる。時系列に並べると分かりやすいね、やめて恋愛の過程を視覚化しないで!
全てを理解した一石教授は未来三澄に聞こうか、と三澄のプログラムを見ただけで起動させて、未来三澄――七年後の三澄翠と繋がった。
ここで一石教授と三澄のここまでに至るまでの関係は分からない。ただ、一石教授がいるから三澄翠はここにいるというほどに慕っている恩師は、もう彼女の傍にはいないらしい。
感傷は捨て、鉱の身に起こったことを天才2人が推理する。
言ってしまえば、鉱に接触していたもう1人が三澄と鉱の子どもである光だった。今の、未来三澄は彼女を身に宿している状態なのだが、それよりも先の未来で鉱と三澄は事故で死ぬ。その未来を変えるために、三澄の古いパソコンに残ったデータを使って自分の存在が危うくなろうとも、救いたかったという感じ。この辺りはもうちょっと周りの有識者に相談は出来なかったのかと思うほどの穴があるが、鉱的には自分の娘という存在に突き動かされていた。
鉱の親は離婚していて片親で育っている。自分も親にはならない方がいい人間だと思っていた。そんな中での自分の娘。俺はただ神経質なだけの男だが、三澄翠は天才だ。
世界を救うため、三澄翠へ告白だ。まぁ、エクストリーム告白なんて言っているが、三澄は完全に落ちているので約束された勝利の告白。でも、恋人になってからの鉱は二階堂の会社へ就職して生まれてくる光のために地味に積み重ねていたのだが、三澄は出産予定日前日に鉱と三澄の関係を変えようとする不正通信を見つけて瞬殺しようとしてたw やめて、天才自重しろw
そこで初めてネタばらしして現在と過去が繋がる。未来の事故、ハイジャックだったんだけどその阻止方法も対処済みなので大丈夫だろう。
最後に、三澄のいう世界は個人の主観での世界。
お腹の中にいる光にとって三澄がすべてで、三澄にとっても光がすべてだった。だから守ってほしかったと言ってるが、たぶんその前段階の鉱に会わずに彼を好きにならないというのも含まれているのだろう。今の幸せは過去から未来へと繋がってできているはずだから。
恋愛、青春小説としてとてもよく纏まった物語だった。
うん、下手に続きが読みたいとかもなくちゃんと完結しているというのがとても好感が持てる。鉱と三澄の恋愛に焦点が絞られているのがよかったが、二階堂さんが恋敵になり得ないという鉱以外全員の認識が面白かった。できれば一石教授のことはもうちょっと知りたかったかな。ただ、タイトルの意味は全く分かってない。

天才少女は重力場で踊る(新潮文庫nex) - 緒乃ワサビ
2024/06/26
新潮社