「今はごはんだけで精一杯ですよ。とにもかくにもごはん。そこが万全になったら考えます。まずは万全にするのが先。わたしは人に何かを教えられる人でもないですし」
ちょいと前のことだがチェキを買った。そうチェキ。らしくない? 自分でもそう思うが、私がカメラに求めるものが物理的な軽さと撮るという行為への手軽さ。あとファインダーを覗く行為が面倒になることがあるのでこのINSTAX Palはすごくいい。それでも持って歩かないことも多いがね。

イッヌの低めアングルもお手の物なので散歩には持っていきたい……いきたい、と思ってはいる。
レンズ保護用のケースを外せば昨日やったUNDERTALEガチャのサンズとくりそつだったw あれ、テミーも当たったのにどこにいったのか。
ま、なんでこんな話をするかというと、せっかくだからこのブログの写真はこいつで撮った写真を使ってみようかなっていう試みのための前振りだよ。
■あらすじ
亡くなった夫と最後にきちんと話した出来事をきっかけに松井波子はこども食堂を開く。
ボランティアで運営される『クロード子ども食堂』では子どもだけでなく大人も利用できるのだが、運営側のボランティア大学生やひとり親のホステスなどみんな様々な事情を抱えている。けれどもあたたかいご飯を食べて、近いようで近すぎない距離で行われる会話に気持ちがちょっとだけ前向きになる。
■感想

どーん、光が入っている許してくれ。
サンズ近い近い、となんか楽しくなったのは内緒。
さて、今回は講談社文庫で行われているちいかわとよむーくコラボフェア対象作品なので買った。ちいかわ大好きな先輩が「てめぇが本当に本読むんなら栞くれよおお!」と乗り込んで来てフェアを知る。結構長い付き合いだが、未だに私が本を読むことを信じてくれていないw
だが、このフェア少し難点があってな。私の利用する書店ではビニールがけした本の裏表紙に栞が挟んであって、でかいそれのせいであらすじが読めない。好きな作家さんの本は既に読破済み。食事系ってことで手に取ってみた。
作者の小野寺史宜さんを私は存じていなかったのですが、子ども食堂話と聞いてちょっと怯んだ。私の個人的な事情は作品には関係ないので後述にしますが、思った以上に読みやすくそれに気づきの多い作品だった。シンプルに面白い、そして綺麗にまとまっている。私は起承転結をそこまで重視しませんが、結の部分が綺麗な作品はなかなか出会えないので素晴らしいと思う。
では、ざっくり説明。
松井波子が夫を事故で失ってからその後子ども食堂を始めるまでの話が波子視点で語られるのだが、これ話の流れが現実の時間軸も経過しながら過去のことも語られる。
章タイトルを見れば分かるんだが、『午後四時 こんにちは 松井波子』のように登場人物で視点が変わりながら子ども食堂の一日も語られる。面白いなぁ、そんでもって無駄がない。
波子は夫を失う前に関係が冷え切ったものだったのだが、以前に公園の街灯の下でひとりご飯を食べるエイシンくんを見守っていた夫と話すことで少しだけ関係は回復に向かっていた。
けれどもその矢先での事故だ。だからエイシンくんをきっかけに子ども食堂をやろうと思った。子ども食堂が始まるまでに過去の出来事から疎遠になっていたご近所さんで閉店したカフェ・クロードを持つ黒沼さん宅に突撃したりとパワフルすぎる行動力を発揮してくれますが、波子さんの話はこれで一端お終い。
午後四時半はボランティア大学生で就活アピール用にボランティア経験欲しさで参加した凪穂の話へと移る。
彼女ことは嫌いじゃない、というか当然そういう下心はあって然りだと思う。自分も高校時代に生徒会――はめんどいので選挙管理委員会に所属したのは受験対策だ。あれは生徒会選挙の時だけ忙しいだけだったから後は楽だった。
ボランティアだからと手を抜くということはなかったが、100%善意の塊のような同じく大学生ボランティア鈴彦と衝突した時は痛かった。やめて、その善意は俺と凪穂に効く……。
午後五時から子ども食堂は始まり、そこからはお客さんがやってくる。子どもだけで来る子もいるが、牧斗は母親と一緒にやってきた。この母親がいちいち文句をつけてくる上に牧斗を置いてデートに行ってしまうような人だから当然のように嫌な気持ちを抱く。この人嫌いである。
けれども、そんな大人でも牧斗には母親。「お母さんはぼくを守ってくれる」は洗脳というか、それしか知らないが故に思い込んでいるようなものかなと。
話が少し脱線するが、去年辺りから所謂毒親についていろいろ考えていたりする。近所の公園で大谷選手に憧れて夜遅くまでバットを振る野球少年がいるんだが、その父親は大変参考になったくらいだ。
だから、この母親でホステスの森下貴紗にも興味があった。
でも、この人は毒親なんかじゃない。行動の理由が分からないと気づけなかった。ありがたい。
貴紗が牧斗を置いてデートに行ったのは結婚相手が欲しかったからだ。男が欲しいのではなく、牧斗とこのまま暮らしていくために安定したかった。過去にもいいなという人はいて牧斗が原因で破談となった時に恨みかけたとはいえ、決して牧斗を邪険にはしない。彼女の幸せは牧斗ありきだ。
牧斗の話で牧斗が同級生にはたかれた事件があるのだが、そこでの貴紗の反応ははっきり言って過剰に思えた。 ……過剰? というか、そんな完全武装せんでも、という感じ。
けど、これにはちゃんと理由があってさ、牧斗が舐められないように牧人を守るためのものだったんだ。アレルギー云々を個人情報だから言う必要はないって断るのも彼女にはそれ。
牧斗と相席していた小学生・千亜と話す時はその武装が取れてていいお母さんになるんだから不思議だ。
こんな感じで全部を語りはしませんが、この一日だけでだいぶ世界は優しく回る。過去に犯した過ちの謝罪が出来たり、離婚の危機がちょっとだけ遠のいたり、理解者が増えてボランティアの当てが出来たりとね。
最後に引っ越してきたばかりで自分の家の場所も分からない賢翔くんのお兄さんが向けに来るのだが、その展開は予測できなかった。
この辺りで前述した僕と子ども食堂の話。
もうだいぶ前になるけど、同期だけどかなり年上の先輩に押しつけられたお客さんがいた。上の方針的に利益が見込めないから切れと言われたような人だったが、のらりくらり躱していた。その人が突然子ども食堂をやるという。その資金繰り頼む、と。
大変だった。単純に言うと賭けられる金が低いとリターンも低い、そんなんではどうにもできない。でもどうにかこうにか開催出来て何度か見に来いと言われていた。さすがにそれは断ったがね。僕は自分の仕事をしただけだ。呼ばれるのは筋違いだ。
その人はその後も何度もやってきては経過を話して言ったよ。おかげで僕は仕事をサボれる――もといお客様対応で席を外すことになったのだが、去年来た時に病気をして声が出せないと筆談で話した。それを機にリスク案件は一つを残してやめさせた。その一つだけは絶対にやめないと言い張る。だってやめたらもう会えないだろ、ってね。
こうやって話すのも仕事のうちだからいつでも時間は作るよ、と話したのが最後でその人は亡くなった。娘さんが引き取りに来て教えてくれたよ。子ども食堂は他人に任せたとのことでどうなったかは分からない。
その直後で読めねぇよというのが正直な気持ちだった。
けど、読んでよかった。なんもかんもと上手くいってはいないだろうが、こんな感じだったのかなって想像ができた。
うん、よかった。この一件とは関係なくこども食堂を取り巻く現状とかが分かったし、物語としてもとても読みやすかった。今度、ぜひとも作者買いをしてみよう。
では、最後に今回のお気に入りへ。
今回はお気に入りというか気づきの多い話だったので、かなり気づかされたところを。調理を担当する久恵は退職して家にいることが多くなった夫との関係に悩んでいたこともあり、食後になにも言わずに去って行った子どもを見て「せめてありがとうと言ってくれれば」と愚痴をこぼす。それを波子に伝えると「私はありがとうを望まないと決めている」と言われる。
「それは、言われたくない?」
「言われたらうれしいです。でも期待はしないです。言われたいっていう気持ちは、いつの間にか言わせたいに変わっちゃいそうだから」
これは、すごく身に染みた。
情けは人の為ならず、優しくするのはあなたのためじゃなくて自分のためなんだから精神でいたつもりだが、言われたい、これをやったのだから礼くらいは言われて当然だと驕ったりしていないかと肝が冷えた。この機に自分の行動を見直していこう。

とにもかくにもごはん
小野寺史宜
講談社 2023/9/15
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