2022年08月15日

ZOO 1



 ママが私を殺すとしたらどのような方法で殺すだろうか。


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 エリセの召喚に成功しました!
 ひゃっふーっ!!と喜びたいところですが、アルクェイドにプーリン、伊吹童子と星5が続いて出たことで種火とかスキル上げにQPとかいろいろなくなった。石とか石とか。
 でも、段々とイベント文章を読めなくなってる自分がいる。結構飛ばしてしまうことがあるんだが、全く飛ばさないこともある。自分に合う合わないが激しくなっていくなー。


 今回は集英社文庫ナツイチから読んでいなかった乙一さんの短編集。僕はですね、ブックバンドが好きでして。今年のナツイチ特典がブックバンドだったのでひゃっほーいとラインナップ見てたらほとんど読んでた。乙一さんも昔読み漁った気がしてたんだが、捲ってみたら読んだことないっぽいこれだ!と購入へ。
 今回の冒頭の抜き出しが最初の一行目なんだが、こんな始まりの読んだら覚えていないはずがない。ちなみに私は乙一さんなら緩やかに自殺する話が好きだ。こうして僕の自殺が始まった、だったかな?

 ブックバンド後日、私の鞄からナツイチの小冊子を見つけた家族が読みたい本があったらしくもう一個もらえたんだがね。読んでいないことに気づけただけでいいんだぜ。


■カザリとヨーコ
 カザリとヨーコは双子の姉妹だったが、母親からの扱いに天と地ほどの差があった。可愛く愛されるカザリといつも殴られて妹に食事を恵んでもらわなければならないヨーコ。
 迷い犬のアソを見つけたことから飼い主のスズキさんと知り合い安息を得るヨーコだったが、ある日、カザリが母親のノートパソコンを壊したことを自分に押しつける気だと分かった時、逃げたしてスズキさんの元に向かうがそこで面倒そうな家族にスズキさんの死を知らされる。

 こいつはなんとも胸クソ悪いぜ。
 双子という時点で結末はだいたい察せられますが、アソが無事だっただけでいい。
 カザリが怒られないように入れ替わり、ヨーコに成りすます……もうこの時点でアウトなんだが、追い詰められるとまともな判断はできなからな。
 自分の遺書を自分で書く。これはどんな気持ちなんだろうね。


■SEVEN ROOM
 喧嘩しながら遊歩道を歩いていたはずの姉弟は気がつくとコンクリートの四角い部屋に閉じ込められていた。部屋には床の中央部分に部屋を横断する五十センチほどの溝があり、身体の小さい弟が入ると同じような部屋が七つ、そして六つの部屋には一人ずつ女性が入れられていた。
 七番目の部屋に入っていた女性が言っていた死体が流れてくるとの言葉の意味が分かった時、順番に殺されていく自分たちの運命を知ってしまう。


 こいつは……ホラーとして最高なんだろうな。映画で観たい。もう映画になってた。ちょっとまだ映画の法については調べてありませんが、映像化されているなら是非とも観たいな。
 ホラーにありがちな理不尽な境遇ですが、姉弟を二人で一人カウントした犯人のミスで七つの部屋の秘密を知ることになる。
 お姉ちゃんが決断を私は予想していなかったので、やられたなぁでもつれえな、とボロ泣きしてしまった。俺の涙腺はガバガバだよ!

 今回のお気に入りはここで。
 六日目、姉弟を殺す犯人が部屋に入ってきた時、お姉ちゃんの渾身の反撃で犯人を出し抜くことに成功する。 ……ぼかして言ってもあれなので、他の部屋の人たちから貰った服を弟の服に詰め、それを姉は守る振りをした。そして溝を流れる泥水に隠れていた弟は姉の腕がチェンソーで切られた瞬間、犯人が入ってきたドアから出て姉と犯人を閉じ込めて鍵を閉めた。


 もちろん、扉は開かない。
 中から、姉の笑い声が聞こえた。高く、劈くような声だった。いっしょに閉じ込められて戸惑っている犯人に向けた、勝利を示す笑い声だった。


 この後、弟は他の部屋を開放してみんなで逃げるわけだが、姉が事前にみんなで逃げろって言ってるわけだよほら泣くしかねぇじゃねぇですか。自分には逃げ道ないからってここまでの献身はできないよ。
 ……でも、あれだな。バッドエンド症候群だから、こいつらはまともに逃げられもしないんだろうな、とも思っている最低な自分がいる。昔やったゲームみたいに、次の絶望がまってるんだろうな!


■SO-far そ・ふぁー
 父と母と三人暮らしだった僕は、ある日、父に母の死を、母に父の死を知らされる。しかし、僕には父も母も見えていて二人を繋ぐように僕は生活していたのだが、次第に二人の姿がどちらかしか見えなくなってしまう。

 ……なにを言っているのか、と思われるかもだが、俺にも分からん。要するに、僕にとっては父も母もいるが、二人には二人が居ないかのように過ごし出す。僕はお父さんはこっちだよ、お母さんはこう言ってるよ、と二人を繋いでいくのだが、次第にどちらか一方しか見えなくなってしまうんだ。
 父に無視したと言われてそれを吐露すると、叩かれてしまい、その先で母に出会った僕は「おかあさんの世界で生きることにする」と決断し、それ以降父親の姿が見えなくなった。

 ここで終われば不思議な話だが、実はこの夫婦、喧嘩をしてお互いを死んだことにして暮らしていただけ。その設定に子どもを巻き込んだ結果、子どもが父親を認識できなくなったわけだ。
 父と母は子どものために寄り添い、子どもは父と母を別れさせないためにこうなったんじゃないかなって思っていたという話。

 うーむ、なんとも自業自得な。
 そうとしか言えないが、この家族はみんな歪んでるよ。


■陽だまりの詩
 自分を作った男が死ぬまでの世話を命じられた私は、世話する過程で様々なことを学んでいく。病原体が蔓延る世界で人間の死を看取るために作られた彼女は、一緒に暮らしていく内に感情を知り、彼の秘密を知ることになる。


 アンドロイド的なものの話。なんでだろ、読んでいる間ずっと沙耶の唄の最後ってこんな感じの世界なのかなって思っていた。
 彼も人間ではなく、作られた人間で自分の最後のために私を作っていた。これな、細かいところ読み返すと彼が人間じゃないことに気づくんだよ。読んでいる間はまったく気づきませんでしたがね。
 そしてまた繰り返す、そんな感じに続いていくんだろうね。


■ZOO
 いなくなった彼女を探す俺の元に送られてくる日に日に腐っていく死んだ彼女の写真。犯人に対して憤りながらも、その写真を送っている犯人は自分だという矛盾。
 これは彼女を殺したことを認められない俺による俺のための一人芝居。


 申し訳ないが、私にはこの話がよく分からなかった。
 最後には自首することを決意するみたいなんだが、ちょっと解説して欲しいので久々に友人に連絡を取ったら「覚えてない」つーね。もう一回読むか……。










ZOO 1
乙一
集英社 (2006/5/19)
posted by SuZuhara at 16:47| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月23日

オーバーロード15 半森妖精の神人 [上]



(――昔より、少し思い出す回数が減ってきた、ような気もするな)


 やっとこさ『トップガン マーヴェリック』観てきた。今月は週1で映画観れているという俺的にグッドな展開だが、もう夏の日中には動けなくなってきたのでそろそろ厳しいか。
 しっかし、今日ほど隣人ガチャが酷かったのは初めてかもしれない。間引きで一席開けた隣で朝マックを食うわ携帯開くわ腕を振りまくるからアップルウォッチ反応してその度に光る……。くそぅ、あんまり集中できなかった。俺も朝マック食いたくなったじゃんかよぅ。


■あらすじ
 アインズは有給休暇と宣言してエルフの国へと向かう。かねてより懸念事項だったアウラとマーレの友達作りが目的なだけだったのだが、既に魔導国の王である身の上で個人的な休暇などとい戯言が通用しなくなっていることに本人だけが気づかないままダークエルフの村を目指す。
 一方、魔導国を警戒するスレイン法国は先にエルフの王を打倒するために大攻勢に出ようとしていた。そんな中でエルフの国へとアインズとともに訪れ期待されたアウラはアインズに褒めて貰うためにも、ダークエルフの村へと侵入して信頼を勝ち取っていく。

 
■感想
 久ビザのオーバーロード新刊! 今回は上巻ですが、下巻は今月末なので時期が分かるとゆっくり待てますなー。
 アニメの方、既に4期が始まっているので観てみましたが、相変わらず私の好きなシーンはカットされている。ほら、お前たちはぶくぶく茶釜の特別とか冒険者組合に隠れていた男の話とか。くそぉ、また小説読み返しちゃうじゃんか。

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 そんでもって、ただでさえ既存巻の10th限定カバー羨ましいのにどうしてパンドラズ・アクターのだけもらえるんだよ。こんなん1冊だけでもあったら全部揃えたくなるじゃん! ……ま、私物を減らさないといけない私には関係ないんですがねー。

 さて、本編。
 ナザリック第六階層、以前ワーカーたちが攻めてきた時にエルヤー・ウルズス――エルフ3人を奴隷のしててハムスケに倒された奴がいたんだが、その時に保護したエルフに情報を得るために接触する。
 個人的にここが一番面白かったかな。ナザリックの食堂のことが分かったり、誰かに美味いものを提供する瞬間は楽しい。ま、食堂の料理長は出てきた意味が分からんが。
 アルベドに有給休暇宣言してマーレの発言に一悶着あるが、やっぱりアルベドには怖ろしいものがあるな。異様にデミウルゴスを警戒しているし、ここに悪魔ラナーはどう絡んでくるんかねー。

 法国とエルフの戦いで火滅聖典がエルフの子ども一人に翻弄されつつもやっとこさ倒すと、エルフの王が現われて全滅するのだが、ここで法国の人間至上主義で他種族死すべしな思考は理解していたはずなのだが、ちょっとだけその考え方に思うところがあった。
 ちょっと早いが今回のお気に入りはここ。
 死ぬ間際、火滅聖典のヒュエンは最後のあがきで数秒の時間を稼げたことに安堵して思う。
 

 これで誰一人として国に戻れないということはまず起こり得ないだろう。ならばそれはシュエンの敗北にしかすぎず、法国の敗北ではない。 


 こういう考え方は嫌いじゃない。

 あとはアインズ様と双子によりダークエルフの村への潜入計画なのだが、今回のは途中までなので仕込みの時期なんだろうな、って感じ。
 この辺りの主的魔獣をアウラが従えて、わざとダークエルフ村を襲撃→ピンチに助けるアウラが丁重にもてなされる計画はいいんだけど、その村のダークエルフが変な方向にアウラを神格化してしまい、アインズ様的にも嫌な展開になっているのだけど、それ以前にダークエルフの名前が、アップルとかブルーベリーなのね。私の貧困な頭じゃダークエルフなんか果物なのか分からなくなってきてしまって……これ、下巻では脳が修正してくれるかな。

 上巻だけでは面白いかの判断はできませんが、次は番外席次とか出てくるみたいだし、もう発売まで1週間後だし、ゆっくり待とうと思います。








オーバーロード15 半森妖精の神人 [上]
丸山 くがね (著), so-bin (イラスト)
KADOKAWA (2022/6/30)
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2022年04月24日

彼女のこんだて帖



 日曜日の夜は肉だろう。


 自分は未だに子どもの頃から使っていた学習机を使っている。だってこれだけ奥行きがあってでかい机って滅多にないんだ。使い安いし、代わりを見つけるのも一苦労だ。
 しかし、もう二十年以上使っていれば塗装だって剥がれてくるし傷も多い。他の机探すかなーっと思っていたら、最近はDIYで自分で修理するのが流行りらしいと聞く。
 さて、どうするかなー。本音を言えばもうちょっと可動域のでかい机が欲しかったりするからなー。


■あらすじ
 四年間付き合った男と別れた日、次の週末はラムステーキを食べると決めた。
 なんとなく恋人と別れようかなんて考えていた時、姉に聞いたレシピで作ったちまきを明日のデートで食べようと考える。
 妹と二人でピザを作り、叶わなかった恋の話を聞く。
 自分のお腹に子どもがいることを知り、子どもの頃に食べていた干物が母の手作りであった事を知る。
 そんな一人ひとり違った生活の中に欠かせない物語と料理の連作短編集。

 
■感想
 何気に角田光代さんの本を読むのは初めてです。
 この本を手に取ったきっかけは、会社の先輩である。この人は大のちいかわ好きで、ちいかわをめっちゃ押しつけてくるw だって、ちょっと会社にいないとデスクがちいかわグッズで埋まっている。「ちいかわ好きなんですねー」って知らない人がいっぱい話しかけてくるからコミュ症にはつらいぜ。
 おいちょっと待て、俺のロッカーにちいかわマグネット貼るんじゃない! 俺のロッカーデコるんじゃないってケンカしてるのだが、これはどうでもいい話。

 そんな先輩の大好きなちいかわフェアが講談社文庫で行なわれるらしい。しかし、先輩は本を読まない。
 ここで「本はそれなりに読みますよ」とか嘘ついて気取ってやがる後輩(私)に見栄を張らせて買わせてちいかわ付箋をゲットしようという作戦を決行することにした、と。てか、俺本読むってそこそこ長い付き合いなのに未だに信じられてない。「お前はどう見ても趣味は読書って顔じゃない」と何度も言われる。
 これはちょっとばかし考え深い。自分、高校時代に「趣味は読書って顔してんのに、多趣味とか持ってんじゃねぇ」って教師に言われたことがあったので。俺の顔は随分と変わったんだなー。
 でも、これもどうでもいい話。

 いいよー、って請け負ったけど、対象ラインナップが新作じゃなくてめぼしい作家さんはもう読んでたんだよ。そこでミステリー大作にいく? でも、コロナ禍で本が全てビニール掛けされてると文章の合う合わないの確認取れないから大作に手を出すのはなんだかなー、と迷っていた時に目についた。
 高校教師が自分を多趣味だと言ったが、自分に興味があるのは昔から本とゲームと映画、あと料理。『彼女のこんだて帖』というタイトルに引かれて手に取るが背表紙のあらすじは括りつけられているちいかわ付箋で読めない。ページが他の本よりも白い(本来は黄色がかった白)気がする。よし読んでみるか、と購入する。
 ちなみに先輩は自分が話をしたその日に本を買ったことに挙動不審になるほど驚いていた。

 今回の初めの言葉は一話冒頭なのだが、彼氏と別れた協子が久々の一人の週末にラムステーキを作って食べて、過去を忘れるのではなく受け止めて立ち直る話。
 次は協子の同僚で恋が長続きしない景がもう別れようかなって考えていたくせに、姉が家族に作っていたちまきを食べて、そしてレシピ教えてもらって自分で作って彼氏に食べさせることを考えたりする話。
 その次は景の姉である衿が子育てしながら自分が平凡な主婦になってしまったことに気づき、夫に家事をストライキする旨をメールする。すると慌てて帰ってきた夫は夕飯を作りだして――と続いていく連作短編。

 うん、非常に面白かった。
 1話10〜20ページくらいの短編も、たぶん次の話はこの人が主役かな、なんて考えながら読むのも。なにより、巻末に料理のレシピと写真があるのがいい。想像だけが補えないものってのは確実にあって、タイ風さつまあげとか全く分からなかった。あと、ちまきは作ってみたいな。

 好きな話はピザからうどん、松茸ごはんの流れ。
 食事を食べなくなった妹を心配した兄が「妹の好きな物自分で作って食わせろ」とアドバイスを受けてピザ作りをする。すると、憧れの先輩の彼女が痩身で自分も綺麗になりたくてご飯たべれなくなっていたことを知る。

 次は妹の憧れ先輩。間近な受験と他の男のところにいった彼女、挙げ句の果てには姉の家出で親は喧嘩という最悪の状況。そんな時に通学バスで自分でピザを作った女の子の話から小麦粉でうどんを作れることを知る。話しかけたらキョドる女の子に申し訳なく思いつつも、家族のいない静かな家で一人うどんをつくり始める。

 その次は家出した姉。家出といっても二十歳過ぎて彼氏とともに夢を抱いて東京へ。けど、彼氏はろくに仕事もせずすぐに辞めて、自分も夢のカフェでの仕事なんか見つからない。このままでは暮らしていけないと母から貰った3万を全て使って松茸ご飯を作り、最後の晩餐に臨む。

 妹と先輩は知り合ったら上手く行きそうなのに、と思う単純脳。
 でも、こういう繋がってるんだがな関係は好きです。
 姉に続く、職場で彼氏に恋心を抱いている女の子の次は絶対ゴンゾーが来ると思ってたのにっ! 来ないって、ゴンゾーって名前だけで気になるだろうに!

 本編だけでなくあとがきも面白かったですね。かく言う私も、干物は自分で作る物だと思ってなかった。でもかかる時間を思うと作れんな。自分待つの苦手なんだよー、忘れるんだよー。

 では、今回のお気に入りへ。
 好きになった人はなんでもできて顔も良い。そんな人に結婚を申し込まれても釣り合いが取れていないと悶々とした時、母から送られてきた格好悪い漬物を見つかってしまう。
 喜んで食べる彼氏の姿を見て、今までなんとも思わなかった光景が輝いて見えていることに気づいた。


 毎日の食卓が豊かになる。そうだ、この人が私にもたらしたものは劣等感ばかりではないはずだ。私たちの毎日はかっこういいものとかっこわるいものでできあがっている。豊かであるというのは、きっとそういうことなのだ。かっこういいばかりではなく、かっこうわるいばかりでもなく。

 
 ここが好きである理由を話すのは、ちょっと私の根幹に触れるので面倒くさくなること確実なので触れないが、きっとそう思える人っていうのはずっと一緒にいたい人なんだよ、って思ってたら後の話でちゃんと婚約者になってて良かったーって思ったよ。







彼女のこんだて帖
角田 光代
講談社 (2011/9/15)
posted by SuZuhara at 10:08| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月09日

フーガはユーガ



「お前も忘れられないんだろ。あの時のこと」


 なんかものすごーく久々に本を読んだ気がする。いや、もちろん久々なんてことはなく主には漫画だが本は読んでて今年に入ってからは電子書籍で30巻一気買いした小説を読了していたりするんだけど、やっぱり本として読むのは久々ですげー楽しいのだった。
 かつてないほどにお久しぶりになりましたが生きてます。今はちょっと集中力が続かなくて一気にがっとやることができないのでいろんなものを平行してやっているのですが……こういうところ器用貧乏なんだよなぁ。


■あらすじ
 双子の兄弟・優我と風我には誕生日にだけ二時間毎に入れ替わるという不思議な現象が起こる。身体ごと、場所を入れ替わってしまうこの現象を不思議に思いながらも、それは彼ら二人の家庭環境を変えるほどの力はなく
、誰かを救えるような劇的な力ではない。
 それでも二人はこの現象を利用して、一人の女の子ために、とある母子のために、そしてずっと胸に引っかかっていたかつて少し擦れ違っただけの家出少女を殺した犯人に立ち向かう。

 
■感想
 電子書籍では結構読んでいるが、きちんと本を買って読むなら何がいいかと考えて伊坂さんの本がいいなって思った。
 今作『フーガとユーガ』はもっと前から気になってはいたんだけど、その時に買っても積む気がして手を出してなかった。だから今回はタイミングが良かったんだろうな。まぁ、何度も言ってるが私の兄貴が双子なのでいまいち双子ものって手を出しにくいんだよ。

 双子が誕生日の一日だけ、二時間後とにお互いの身体が入れ替わる。これは所謂「私たち入れ替わってるぅ」ではなく、お互いの身体の位置が入れ替わる、瞬間移動である。
 正直、こんな能力で何ができるよって思ったね。そうやさぐれたくなるほど優我と風我の家庭環境はひどい。ちょいと1年ほど前にネグレクトについて囓ったのだが、どんなに詭弁を弄そうとも暴力で従えるという行為は酷い以外のなにものでもない。……もっと酷い状況ってのもたくさんあるってのがキツいが、それこそ風我が言うように、簡単に解決しないことは俺たちのほうが分かっている、なんだよなぁ。

 話はファミレスで高杉という男と優我が話しているところから始まる。高杉は優我と風我が入れ替わっている映像を手に入れたことで優我に接触してきたわけだが、そこで優我は自分たちの過去を話すことになる。

 過去の話は大きく分けて3つ。
・優我と風我の家庭環境について。
・小玉について。
・ハルコとハルタについて。

 最初のは簡単、ほぼ育児放棄された優我と風我の家庭環境と入れ替わりの瞬間移動を自覚した時のこと、それが二時間置きに起こること、1年に1回誕生日――彼らの親は出生届を適当に出したのでおそらく誕生日だろうと思われる日に起こることを知っていく。
 他にも細かいこと、移動する時は少しの間周りの時間が止まるとか、持っているものは一緒に移動するが、車などに乗っていても一緒に移動するわけではないとか分かっていくわけだが、それが分かったところで暴力を振るう父親に立ち向かえるわけじゃなかった。
 母は姿を消したが、二人は父親の元にいるしかなくなった。岩窟おばさんっていう理解者、グレーだが頼りになる大人がいるが、その状況から救い出されるわけじゃない。

 双子はこの入れ替わり現象を利用して、学校で虐められていたワタボコリと呼ばれる同級生を助ける。義憤からではなく怒りから。いじめという自分よりも弱いものに行われる理不尽な暴力に対する怒り……なんかこういうとチープだが、いじめられている姿から父親と自分たちの関係を重ねてしまったことからの行為だったけど、

 この日の出来事は双子にとって大きな意味を持つことになる。

 この後にワタボコリと一緒に出会った小学生の家出少女のこと。風我が面白半分でお守りなんて言って渡した血で汚れたシロクマの人形を抱えた少女が車に轢かれて死ぬことになる。
 それもわざと。
 しかも何度も。
 逃げられないように縛りつけた少女を何度も轢いたのだという話を聞くことになる。

 このことは優我と風我にとって根深く残る事になった。

 次は小玉という少女。
 優我が高校生、風我が岩窟おばさんのリサイクルショップで働いていた時の誕生日、入れ替わりの時に出会った少女。
 風我はちゃっかり彼女と付き合うことになるのだが、小玉には秘密があった。自分たちと同様に家に問題があるのだろうとは双子も感じていたが、小玉の親は既に折らず、親代わりである叔父にショーを行なわされていた。苦しむ女の子の姿を鑑賞するショーで小玉はどでかい水槽に落とされることを繰り返しやっていた。

 ……うわぁ、この手の輩がいることは知っている。海外映画によくある秘密クラブである。双子は小玉を助けるためにこのショーに乗り込むのだが、彼らの力は入れ替わるだけでなにかを変えられるわけじゃない。
 入れ替わりで武器を持ち込んだ風我が水槽を壊しめちゃくちゃに暴れるってだけだったけど、幸い上手くいった。
 ただここでは岩窟おばさんにお金を借りるシーン、岩窟おばさんの信頼を裏切るようなことになったってもやらなきゃいけないってのがつらかったな。

 ハルコとハルタは優我が大学生になってバイトのコンビニで知り合った母と子。ハルタが捨てた雑魚カードに意味を持たせたいって優我はカードゲームを始めてこの親子と知り合っていくが、初めハルコを姉だと思っていた優我に下心がないはずない。風我と小玉と一緒にわっくわくで話を聞きたいね。
 優我は大学生になって一人暮らしをして父親の元から離れていたが、バイト先に来られてハルコたちのことを知られてしまう。過去の家出少女を思わせるような事件が再発し、ハルタが姿を消す。父親の家にハルタを探していたはずのハルコがいて――とまぁ、胸クソだからか書かないがこの父親は本当にどうしようもない。
 運動神経は風我で頭の良さは優我なんて役割になっていて手が早いのは風我の方だったのに優我は父親を殴っていた。

 親子とはこの一件で疎遠。
 入れ替わりで父親をバイクで追った風我は死んだと優我は話す。高杉にはフェイク画像を利用して接触したのだと。
 過去の轢き逃げ犯が名前を変え、そしてまた犯行を繰り返していることを知ったからだった。

 ワタボコリはそんな日に常磐くんと再会した。お前が結婚して子どもが生まれるとか嘘だろおおおと思ったが、ここは重要、なるほどなーに繋がる。
 ワタボコリにとって過去のクラスメイトとの邂逅はなんだか気になるくらいだったが、そのクラスメイトが頭を殴られて連れ攫われたら追いかけるしかなかった。
 そして、セキュリティ関係の仕事をしていたこともあって連れ攫われた豪邸に侵入していくのだが、そこは元小玉の家で、汚れたシロクマの人形。頭から血を流す優我はどうしてワタボコリがここにいるか分からなかった。分かるはずがねぇのだよ、優我には。

 猟銃装備の高杉にワタボコリが撃たれて優我も既に瀕死。
 でも、優我は何度も言っていた。僕の話には嘘がある。

 そして、跳んできた風我が見たのは事切れた優我の姿だった。
 死んだら瞬間移動は行なわれず、最後の瞬間移動。優我は風我がいつもやっていたように親指を立てていた。行け行け、と。

 つまり、優我は風我が死んだという嘘をついた。
 生きていた風我は瞬間移動で跳んだが、絶命のタイミング的に優我は飛べなかった。
 ここから風我はいち早く状況を理解し、理解できない高杉をボコるわけですが、このシーンは説明するよりも優我視線で進むことが面白い。死んだ優我が状況を俯瞰していて、その後のこと――風我と小玉に生まれた子どもたちの時も優我は一緒にいる。
 優我――この時は風我だったのだが、ワタボコリを巻き込もうとして巻き込めなかったのは小玉も妊娠していたから。だから優我はワタボコリの存在を知らなかった。新幹線が止まって動けず、二人は側にいなかったんだ。

 最後、風我は大きくなったハルタに会う。
 ここでハルコのことを詳しく聞かない風我に優我が不満げなのはすげー面白いのだった。

 なんとも言えない読了感のある本でしたが、たぶん『バイバイ、ブラックバード』と同じくらい好きですね。文庫版は小玉のショーがマイルドになっているだと……? 単行本も買ってくるか、なんて思うくらいには好きですな。
 あとがきにもあるけど問答無用のハッピーエンドではないけれど、優我と風我のただ兄弟・双子だからでは説明できないような絆が良かったんだろうな。特異な力を持ったってなんの役にも立たないかもしれない。それでも、なんとかしようと足掻いた姿がこの二人を好きにさせるんだろうな。

 ではここらで今回のお気に入り。
 久々の読書だったから付箋を忘れて記録できてないんだが、強いて上げると優我が死んだ後の風我とワタボコリのやりとり……なんだけど、長いので抜き出しはなし。

 死んで俯瞰している優我が風我に、自分は手遅れだからワタボコリの傷を見てやってくれ。お礼を言ってくれって思うだけで風我はそれを当然のように行動するするのが、ああいいなぁって思ったのでした。
 






フーガはユーガ
伊坂 幸太郎
実業之日本社 (2021/10/7) (2021/9/16)
posted by SuZuhara at 21:16| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月09日

妄想銀行



「こうしたほうが派手でいいじゃないか。ものごと、ショッキングでなければならぬ。なあ、そうじゃないかい」


 現在、ちょいと身辺整理中です。元々物が多いってのもあるけど、いろいろとけじめとして終わらせないといかんというのもあるけど、昨今の時代的にサブスクもあるから物自体持ってなくていいんだなってやっと気づいたのである。いや、重要な物は今でも現物主義だけど、固執する必要はないなって。
 僕、決断までは時間かかるんですが、一度決めたらさっさとやってしまうにかぎるのでこのままやってみようと思われる。


■感想
 久しぶりに星新一のショートショート。毎回思うんだけど、これを読むと前にテレビでやっていたドラマとかアニメとかまた観たくなるんだよなぁ。

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 夏に購入したプレミアムカバー2021ver。
 黄色でおしゃれな感じだが、よく見るとカバー裏が透けてしまっているのが残念かな。
 ま、どうせ僕はブックカバーつけちゃうんで関係なくなるんですがね。

 ショートショートなので今回もお気に入りだけピックアップする。

■住宅問題
 部屋代を払ったことがないエヌ氏のアパートには広告が溢れていた。部屋に響く声は常に商品を紹介し、視界の邪魔にならない部分にも常に広告が入る。無料だから仕方ないと諦めていたが、格安で高原地方に家を買えることになり、広告のない静寂を求めて見学もせずに購入を決めてしまう。

 これは時代を先取りしすぎている。携帯広告なんかがまさにそうじゃないか、広告消したければ課金せよ、ってね。
 エヌ氏も静寂を求めて高価な買い物をするんだが、そこにあったのは自然すら広告に変えた景色で……。
 うわー、なんつーデストピア。途方に暮れる以外の行動ができないよ。

 ちょっと早いけど、今回のお気に入りはこの話から。
 エヌ氏の家に響く声や視界に入る広告について書かれた説明のところ。


 巧妙きわまる画面の構成と色彩、心の奥底に忍び込むような音楽、反感を刺激しない洗練された上品なしゃべり方、生かさず殺さずの極致といえた。押しつけの度がすぎて住民の頭をおかしくしてしまっては、スポンサーたちにとっても、もともこもなくなるではないか。


 この、生かさず殺さずの極致ってとこ。
 本当に笑えないよな。現状、僕らは搾取されることに慣れすぎているから、気づかないのであれば気にならないのであれば、別に構わないって思ってしまうもんよ。


■陰謀団ミダス
 軽率で優秀でもない青年は就職の面接中、嫌味な担当に当たった。腹を立てて出てきてしまったが。ひょんなことから手に入れた図面の家に嫌がらせの意味も含めて泥棒に入るが先客がいて失敗してしまう。
 脅される形で住所等を教えてしまったのだが、その時の反応が陰謀団ミダスに認められて合格となる。殺人はしないという陰謀団ミダスからやってきた指令は宝石店に強盗に入ることだった。

 これは面白いな。
 要するに、依頼の強盗は決められたもの。この騒動により、保険への関心、警備員の警報器の強化、人質になった女は脚光を浴びてタレントになどなど。陰謀団ミダスの目的は強盗の結果ではなく、強盗騒動によって引き起こる副産物の方ってわけだ。
 こんな一団で尖兵できるなんて楽しいのに、青年は欲をかいて陰謀団ミダスのことを告白しようとする。世間の注目を自分に集めるためっていう、僕には一切ない自己顕示欲のためだ。

 けど、そんなのさ、組織が対応していないはずないだろ?
 青年の告白は精神異常者の妄言とされる。現代病患者として、研究と治療のための資金集めとして利用されるのだった。


■さまよう犬
 毎日なにかを探す犬の夢を見ていた女だが、ある男に出会い結婚すると夢を見なくなった。
 そして、夫となった男が夢の中でなにかを探す犬になっていたことを知る。

 たった2ページの作品ですが、テレビ版も含めて印象深かった。
 星新一のショートショートはいいぜぇ。


■宇宙の英雄
『私たちは死に瀕しています』
 そんなメッセージを収めた小型ロケットが地球にもたらされ、宇宙パトロール隊員の男は周囲の制止を押し切って駆けつける。
 様々なトラブルに見舞われ、つらく死ぬ思いをしても「いかなることがあっても行かねばならぬ」と使命感を胸に行動し、ついには目的地へと到着する。

 そして、SOSのメッセージの意味が「退屈で死にそうだからここまで大冒険して辿り着いてその話を聞かせて」というのはなんとも報われないオチだった。こういう悪意のない悪意、好きなんだよなー。
 あと、エヴォリミットの雫を思い出したな。どうしても月へ向かうという説明できない使命感。まぁ、全年齢化してないんでまだやってないんですけどねエヴォリミット。簡単に説明してもらっただけなんですけどね。二挺鉈とか、すっげー読みたいんですがね!

 好きなのはこんなところでしょうか。
 やっぱり読むと面白いですね、星新一作品は。
 








妄想銀行
星新一
新潮社; 改版 (1978/4/3)
ラベル:星新一
posted by SuZuhara at 23:22| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする