2018年06月05日

砂漠



「北村、残念ながら、俺を動かしているのは、俺の主観ですよ」


 今まで平穏無事だったくせに今年はちょこちょこいろんなことが起こっています。とりあえず、ゲームという精神安定剤をください。今月末まで私の胃はキリキリしっぱなしだぜ!
 どこでもドラゴンというソシャゲを始めたのでカッコ可愛いドラゴンたちに癒やされようと思います。


■あらすじ
 仙台市の大学に進学した北村はそこで四人の生涯の友達と出会う。
 軽薄な鳥井、限定的な超能力を持つ南、誰もが認める美人の東堂、そして極端な考えをしながらも真っ直ぐな西嶋。
 五人の大学四年間は麻雀をしながらボーリング勝負やプレジデントマンとの遭遇、空き巣に関わったことで失ったものに向き合うことになる。


■感想
 以前にも書いたかもしれないけれども、私は伊坂さんの本が好きで結構読んでいた。ですが、天の邪鬼なので映画化とか立て続けにされると読まなくなり、よく分からなくなって読まなくなっていた。
 今回は本屋で平積みになっていたから買ってみたのだけども、私、たぶんこれ読んだことあるわw

 全部覚えているわけじゃないんだけども、ボーリング勝負の結果とか南の能力、あと鳥井を励ますための西嶋の中とか、読んでいると思い出すんですよ。
 あと、鳩麦さんのこととかね。
 結末は少しも覚えていなかったけどww

 ざくっと言えば、五人の大学生活という輝かしい青春物語。
 サークルに費やす毎日も青春でしょうが、何をするわけでもなく麻雀をするために集まったりして馬鹿騒ぎをする、そんなありふれた青春だろうけれどもそれこそ恵まれているんだよ。

 この話の魅力はなんと言ってもキャラの濃さですな。
 北村は淡々と客観的に物事を見ますが、鳥井は面白さ前回のノリ男。南はおっとりしながらも物を動かすという超能力と最強の麻雀師だし、東堂はクールで他人に無関心化と思いきや意外に行動的。
 しかし、一番説明に困るのは西嶋だよなー。
 大学の飲み会でいきなり政治のことを話し出すような面倒くさい男だけど、それはただ真っ直ぐすぎるだけで頑なでありながらも友達想いの男ってところでしょうかね。
 はい、全然伝わらないですね。

 五人は新入生の飲み会で知り合うんだが、つるむようになるのは西嶋の声かけから。なんでも名前に東西南北があるメンバーで麻雀がしたかったから。鳥井は場所提供者でした。
 これがきっかけで五人はよく遊ぶようになるんだけれども、序盤の序盤で東堂が西嶋に惚れたのはびっくりでしたな。いや、この辺も覚えてはいたんだけどね。

 そんな中、鳥井がその軽薄さから遊んでいると思われ、ホストたちによる金を巻き上げるカモに選ばれてしまう。
 西嶋の活躍で何を逃れるのだが、後にこのホストが空き巣を行うことの情報を掴んだ鳥井、北村、西嶋は張り込みして空き巣を防ごうとするが、ここで悲劇が起きてしまう。
 逃げようとしたホストたちの車に鳥井が引かれ、片腕を失うことになってしまう。

 腕を失った鳥井は以前のように笑わなくなった。そんなものは当然だが、傍で見ている方はたまったモノではない。
 献身的に鳥井に尽くす南だったが死んだ心には響かず、今まで近寄らなかった西嶋が麻雀をしようと言い出す。
 ここでの向かいのマンションを使った『中』作りはいいよなー。ちゃんと覚えていたよ。

 それから東堂と西嶋の恋の行方とか三度どころか何度も何度も関わってくるホストの話と続いていきますが、長谷川さんは許してあげようぜ。何故かなんて言葉にはできないんだが、昔から長谷川という名前の人には弱いんだ。

 仲間同士がくっつきハブられたかと思われる主人公の北島ですが、こいつは初っ端に年上の彼女作っているんで気にしなくて良し。鳩麦さんの理解力最高だよな。

 では、この辺りで今回のお気に入りにいきましょうか。
 幹事の莞爾で活躍してくれた同級生は卒業式の時にこう言い残した。


 莞爾は小さく笑い、「俺さ」と口ごもった。照れ臭そうに下を向く彼はどうにも彼らしくなかったが、しばらくして顔を上げ、「本当はおまえたちみたいなのと、仲間でいたかったんだよな」と口元を歪めた。


 ああ、本当にな。
 事件なんかいないけれども、気の置ける友達ってのはさ本当に羨ましいよ。








砂漠
伊坂 幸太郎 (著)
(2017/10/4)
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2018年05月06日

オーバーロード13 聖王国の聖騎士 下



「私は分かったんです! 陛下こそが正義だと!」


 ……連休が終わってしまうとは何事か。
 私の暦通りの連休はなかなかにアグレッシブなものでB'z30周年のSCENESに行ってきたよ。休みの間にお出かけしちまったよ。
 けれども、大層込んでいたのでグッズなどは買えなかったですね。カーキの帽子欲しかったのだが。
 FGOは早々にアキレウスもケイローンも来てくれておかげで息切れ、GEREOはアネットというまたしても破属性でもう耐えられない。
 終わりのないゲームというのは存外に疲れるなぁ、と実感する次第です。


■あらすじ
 魔皇ヤルダバオトに襲われる聖王国の救出に一人赴いた魔導王・アインズだったが、主催のデミウルゴスに誰も助けるに値しないとして亜人たちの襲撃を見守っていた。
 そのため従者として仕えたネイアも死に、蘇生された時にはアインズを神のように崇拝する敬虔な信者のような考えをするようになっていた。
 聖王国に見せる悪魔との戦いと自分の訓練を両立させた後、配下にしたメイド悪魔としてシズを聖王国につけてアインズは消息不明――死んだと見なされてしまう。
 アインズの死を信じないネイアは同じく魔導王を讃える仲間を増やしていき、シズとともに亜人・藍蛆(ゼルン)の王子を救出するために動くことになる。


■感想
 ずっと楽しみにしていたオーバーロード新刊にして聖王国編の後半ですが、ちょいと評価に困る内容でした。
 高らかに謳っていた「アインズ死す」は正直どうでもよかったのですが、全体的に面白いとは私には思えませんでした。うーむ、残虐なことバンバンしてくれるのは楽しいんだがね。

 アインズが前回戦ったことで聖王国側は魔導王がいれば、と希望を持つようになるが、全部全部アインズ様がやってしまうと意味がないので亜人軍団の襲撃戦は魔力温存だと出てこない。
 レメディオスはアインズが活躍するのが心底嫌なのですが、亜人に勝てずに助けに来たアインズに全て押しつけて逃走。ここでアインズが起こるのは無理はない。俺、本当にこいつ嫌い。

 強い者こそ正義=アインズという狂気に目覚めつつあったネイアは亜人たちを迎え撃ちますが、いくら装備が強くても際限なく襲ってくる敵を前に死んでしまう。
 アインズはレメディオスを助けて失敗したことからネイアだけでも助けて恩を売ろうと蘇生アイテムを使ったのだが、ネイアのアインズ崇拝が強くなっていく。最後のキャラ紹介で「狂眼の狂信者」と変わっているようにネイアは死んでスキル構成が変わり、無意識に洗脳できるようになってしまっている。
 つまり、聖王国でアインズ教みたいなものを知らしめる伝道師になっているわけだ。怖いなー。

 アインズ様はナザリックに戻ってデミウルゴスとアルベドと話し合い。口絵カラーのシーンは面白いですが、後は繰り返し行われてきた勘違いとすれ違いの会話。この辺は予定調和で新鮮味がなかったですなー。

 続いてヤルダバオトとの八百長試合を訓練の場にしたアインズ。そこでアインズは敗北し、ヤルダバオトは傷を癒やすために引っ込み、聖王国はアインズが支配したメイド悪魔シズを手に入れる。

 ネイアとシズはアインズ様崇拝で仲良くなり、ゼルンの王子救出戦と向かう。
 ここのシーンでの悪魔はすっごいよかったなー。ケラルトとか細かく設定してあるくせに簡単に殺すんだもの憧れる。

 あとは予定調和にアインズ様が復活してヤルダバオト撃退。ネイアは聖王国に残り、アインズの素晴らしさを語り続けるのだった。デミウルゴスが計画通りならぬ計画以上の成果にご満悦でしたとさ。

 普段と比べて何が心に響かないのかと考えてみましたが、おそらく帝国も支配して敵らしい敵、脅威がないこと。
 前巻から入るンフィーレア夫妻の夜事情。次には子どもでも生まれているかもしれませんが、気持ちいいから複数回とか本当にどうでもいいや。
 カルカとケラルトの結末は良かったですが、せっかく足りないままでの蘇生魔法の成功率について前回語ったのだからやって欲しかったり。レメディオスも入れて三位一体してあれだけ嫌っていた魔導国でしか生きられないとかなればよかったのに。くそぅ、俺は本当に最低だな。

 次は来年とのことですが、アニメ2期も個人的にあまり好きではなかったのでぼちぼちと待とうかなと思います。
 いい加減、至高の御方々現実での最後が不穏すぎてどういうことか知りたいんだが。

 では、今回のお気に入りに。
 アインズが聖王国に言っている間、アインズ死すの一方に苦しむヒルマたちの話を。名前を忘れたけれどもアルベドに好意を持つ三男坊の発言はヒルマじゃなくとものたうち回りたくなる。


「それだけだったら胃はキリキリしないよ! あいつ、今アルベド様と結婚したら魔導国が手に入るんじゃないだろうか、とは言ってんだよ!」


 ひゅー、早いところ彼には結末に至ってもらわないと。
 アルベドさん、最近タガが外れかかっているから楽しみだ。








オーバーロード13 聖王国の聖騎士 下
丸山 くがね(著), so-bin (イラスト)
KADOKAWA (2018/4/27)
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2018年04月11日

キャロリング



「好きな人が自分のために手を汚すことが平気なの」


 FGOでアナスタシアピックアップはスルーで行こうと決めていたのに皇帝とか来たら回さざるを得ない! と、貯めていた石を全て失う爆死。
 GEのレゾナントオプスが始まったぜ! アリサのためにシナリオ進めて回すぜ! と、シナリオを進めても出るはずがなかった。
 ……うん、知ってた。GEなんかソーマさん二人来たけど、アリサは一向に来ない。しかし、ナナの誘引の優秀さとタツミさんの格好良さには救われる。
 だけれども、神機を作る楽しさがないのは残念だなー。



■あらすじ
 子ども服メーカー『エンジェルメーカー』はクリスマスの日に倒産が決まっていた。それまでの残り少ない時間、会社に併設された学堂に通う小学生・航平は母の海外赴任が決まり、両親の離婚の危機に悩んでいたことから、社員の折原柊子に父親の元に連れて行ってもらうことにする。
 母親には内緒のその行動に気づいた柊子の元恋人である大和も首を突っ込んでいくことになるが、家族同然である部下たちを守るために取り立て屋の赤木は航平を誘拐してなんとか金を得ようとする。


■感想
 あらすじがまともに書けたことなど、ない。
 今回は大分時間がかかってしまいましたが、前回読んだ『代償』と一緒に買った有川浩さんの『キャロリング』です。
 正直、あらすじも何も読まずに買ったので初っ端の誘拐騒動には驚きましたが、いつもの安定の有川さんでした。

 有川さんの作品は結構読んでいるのですが、今回の主人公・大和の過去には泣かされましたなー。
 不憫とか報われないとかだけならまだしも、守ろうとした親にすら理解されないというのは悲しすぎた。大和に英代がいてよかった。
 だからこそ余計に、柊子との食い違いも理解できて辛いんだがな。

 父親の家庭内暴力をいつの間にか自分のせいにされていた挙げ句に、離婚後に再び父親とよりを戻すという母親に呆れた大和俊介は親とそれ以上関わることなく生きていくことを決める。
 そして、子どもの頃から気にかけてくれた母の友達・英代の元で仕事をしていたのだが、ついに倒産の日を迎えることになってしまう。

 五人と小さいながらもやってきた会社が潰れてしまうことを悔やみながらも、せっかくクリスマス倒産なのだからと最後のパーティーをしようと決める。

 しかし、その日までが長い。
 会社に併設された学堂の生徒・航平の親は離婚の危機を迎えており、子どもながらに親の喧嘩を止められなかったことを悔いていた航平は父親に会いに行くことに。
 ここで大和と柊子の終わりを先に読ませておいて航平にその傷をつかせるのはズルい。親の離婚なんて珍しくはないかもしれないけれども、不幸度で航平に勝てるのは大和しかいないもんな。

 航平が父親に会いに行くと父親が接骨院で働き、そこの院長に惚れていたりと、さすが不倫で別居中になっただけはあると感心する始末があった。ここには他にも院長に惚れているおじいさん・大嶽とか居るけれども、誰も取り立て屋のことを心配していなくておかしいなと思ったら自分の気持ちしか見ていないという指摘があって納得した。
 航平と大嶽が協定を結んだことがきっかけで大和にバレてしまうのだが、こいつは本当に歪まずに育ってくれたなぁと嬉しくなる。
 柊子のことは親には言うなとか、航平父にも大嶽にもびしっと言ってくれるし、何より取り立て屋にビビらず対処してくれるのがいいな。

 ここでまさかの取り立て屋サイドになるのだが、親の引いたレールのせいで取り立て屋となり「赤木ファイナンス」を立ち上げた赤木は、上から使えない部下を押しつけられつつも仕事をこなしていた。
 赤木は優秀な男だったが、居場所がない者同士で集まれるここが気に入っていた。
 しかし、事務員として引き取っていた少女・レイが消えた父親の代わりに借金を払うために風俗に行かされることになってしまう。そのためになんとか金を集めようとしていたところに、航平から院長への気持ちを疑われた大嶽が借金を肩代わりしようとやってくる。

 金をだまし取る予定だったが、大和に邪魔されてご破算。
 大和たちの方も航平が父に会っていたことが母にバレて、書きためていた自分の気持ちを物語として書いたノートを渡して父に会うことの許可を得た航平が父親に会いに行ったところで柊子ともども誘拐されてしまう。
 これは部下の男二人の暴走で赤木にも予想外であり、引くに引けなくなった誘拐劇が始まるのだが、いやー、大和と柊子の関係はいいなー。お互い分かり合っていて大好きなくせに一度の傷で触れ合うことはできないってのが。
 赤木とレイの父と子のような関係も、ベンさんと朝倉のでこぼこ感もなんでこいつらの話をもっと読めないんだろうと思ってしまうほど好きでした。
 物語としては特に変わったところはなく、予想通りの終わりを迎えましたが、エンジェルメーカーの社員ズはキャラクターが濃くて面白かったです。

 では、今回のお気に入りに。
 大和は毎回年上を呼び捨てにしてくる航平に文句を言うのですが、最後の最後で大和だけでなく納得させられてしまった航平の言葉をあげておこう。


「いいじゃん、呼び捨てで。友達だったらさん付けなんかしないよ」
 思いがけない言い分に思わず目をしばたたいた。――まあ、それなら許容範囲か。


 大和が柊子に感心する辞書にないという表現も好きだし、英代の言葉はいちいちこっちの弱ったところに入ってくるので参りましたが、それぞれのクリスマスを過ごすために起きた物語はなかなか面白かったです。







キャロリング
有川 浩
幻冬舎 (2017/12/6)
posted by SuZuhara at 22:20| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月24日

代償



 その後は、ずっと晴れ間を見なかった気がする。


 読んでもらう当てのない手紙を書きました。
 思えば、こんな無駄なことをしたのは二度目です。一度目は幼少期に亡くなった祖母に、今回はたった一度、それも三分にも満たない時間に会ったことがあるという方でした。憧れていた方でした。あまりの突然の訃報だったのでどうすればいいか分からず、こういう時の自分の行動はガキに戻るようです。
 だから、自分はちょっと途方に暮れています。
 ここに書くことではないと思ったのですが、自分がこの日を忘れないように書いとくことにしました。


■あらすじ
 奥村圭輔は幼少期に火事で両親を失い、親戚の浅沼家に引き取られることになる。母の遠縁である道子、そしてその子ども達也には両親の生前から嫌なものを感じていた圭輔だが、引き取られてからは奴隷のような暮らしを強いられる。
 そこから救ってくれたのは圭輔の友人・諸田寿人とその親戚である牛島夫妻だった。家族のように接してくれる彼らのおかげで立ち直り、弁護士としての働いていた圭輔の元に捕まった達也から弁護の依頼が入る。


■感想
 ちょいと最近仲良くなった人から勧めてもらった本です。なんの前情報もなく読んだ本でしたが、なかなかに嫌な気持ちになる本でしたな。こんなことされたらもう死を覚悟して突貫するしかない。家族に手を出された時点で後先などないのだからな。

 さて、始まりは圭輔の環境から。
 普通よりも裕福な家庭ですくすく育った圭輔だったが、途中で引っ越してきた浅沼家の嫌な感じがひしひしと感じて序盤は辛かったなー。道子が母親に金をせびっているっぽいのが子どもの視線でも分かり、その子どもの達也は同年代ながらもエロ本とか薬でネズミを殺していたりと好きになれたら終わりだろう。

 それでも我慢して親戚付き合いしていると、一緒に行ったキャンプで父親のナイフが失くなるという出来事が起こる。これは本気で嫌な予感だった。達也に自慢した後に失くなったからだ。私も幼少期に幼馴染みの兄貴がよく物を盗る人だったので、自慢することは命取りだと学んだ人間だ。このタイミングで失くなれば確実だろうさ。
 キャンプ以降、頻繁に遊びに来るようになった達也と家から無くなるお金とおそらくコンドーム。
 やんわりと達也を出禁にしてから、一週間預かってほしいという道子からの申し出。

 ああ、ダメだ。絶対にダメだ。
 きっと誰もが思っただろうが、親戚付き合いともなると断り切れないのだろう。大晦日の日、圭輔が達也と一緒に作ったカレーを食べた両親が早々に寝入ってしまった日に火事が起きた。

 達也に起こされて助けられた圭輔だったが、両親はそのまま亡くなった。なし崩しのままに道子に引き取られることになり、金品やら金目の思い出の品は全て奪われた。
 喪失の痛みが癒えぬままに圭輔は道子に言われるがままに後見人に指名してしまい、浅沼家で奴隷のような暮らしを強いられる。新しい服を買ってもらい圭輔が両親から貰い無くなったはずの電子辞書を持つ達也とは正反対に、風呂にも入れぬ暮らしだ。
 もう電子辞書の時点で我慢の限界だろうよ。けれども、それを爆発させるだけの力がもう無かったんだよな。

 中学で唯一の趣味である読書をきっかけに出来た友人・諸田寿人と圭輔が憧れていた木島未果のおかげで徐々に立ち直りかける圭輔だったが、達也が未果に目をつけてしまう。
 だが、夏休みが明けて未果が転校した。達也たちに犯されていたんだ。寿人もその頃余所余所しく、唯一の拠り所を失った圭輔は追い詰められていく。

 というのが一部なんだけど、いやー、鬱にしかならないね。この後、寿人が壊れた圭輔を見て泣くシーンがあるのだが、居たたまれない。寿人も助けられない理由があったのだが、それを優先した結果が友達のこの姿だなんて悔やんでも悔やみきれないよ。

 二部からは弁護士・奥山圭輔の話。
 国選弁護人を解雇して指名してきた達也に初めは会うつもりなど無かった圭輔だが、度重なる手紙に匂わされる火事の出来事。火事が起きた時に達也に唆されてタバコを吸っていたので弱みを握られていたのだ。あと、当時母親が達也の情欲の対象だったということもある。本当に殺したいな、こいつは。

 達也が「圭ちゃんは短期だ」と言うように性格を利用し、道子と未果の妹である紗弓を利用して圭輔を証人に偽証を強要したと仕組んで貶めにかかる。裁判員裁判で犯行時間は義理とは言え自分の母親との情事をネット配信してましたなんて言ったらマスコミは食いつきますがな。反吐が出るがな。
 ジャーナリストのアシスタントをしていた寿人も戻り、一緒に達也の事件を追っていくと出てくる出てくる達也の所業。沙弓も達也の舌先三寸で姉が犯されたのは圭輔のせいと思い込まされているくらい達也は人の心を掴むのが上手い。
 だから、一つずつ証拠を辿り真相に辿り着いた時、全てが達也の思い通りに動いていたことにはおぞましさしか感じなかった。

 その達也の計算違いは二人の女でしたな。
 紗弓が姉の自殺の原因を知り、達也の強力なバックアップである道子をいつでも切り捨てられるつもりでいたことの証拠を握られ、達也の裏切りを知った道子には農薬を飲まされる。効力は達也がネズミで実験し、それで人も殺した急性パラコート中毒。数日間生死を彷徨った後で起きれば道子は既に自白済みと、因果応報なのでしょうが結末はちょっと呆気ないと感じてしまう。それが人間が味わうもっと苦痛なものの一つでも、と思ってしまうのは最近観た映画が『復讐者』とか『ハード・パニッシャー』だったりすることが起因するんだろうな。決して僕の趣味ではないはずだ、うん。
 これから代償を払うとしても、奪われた家族は戻らないからな……。

 なかなかインパクトのある表紙の本でしたが、ぐいぐい引き込まれて読んでいました。勧善懲悪、圭輔が主人公であると分かっていても一向に弱みを見せない達也の強かさには歯がみしたくなりましたが、寿人という手を汚してでも真実を暴こうとする友人の存在には救われましたな。
 なので今回のお気に入りはどうして彼が好きなのか分かったシーンを。
 ちょっと長いのだが、過去に道子の家から牛島家に引き取られることが決まった圭輔を迎えたときのことを思い出したところを。


 中学一年のとき、ひとりも友人がいなくなって来る日も来る日もただ本を読むしか楽しみがなかった自分に、気さくに声をかけてくれた笑顔だった。泥仕合のあと牛島家にひきとられることが決まって、ささやかな引っ越しが済んだ夜に「よかったな」と肩を叩いてくれた笑顔だ。いままでなにひとつ、ただの一度も圭輔に見返りを求めたことのない笑顔だった。家族以外に、こんな人間と出会えたことは、奇跡のひとつではないか。


 なんだ知らないのか圭輔は。そういう人をさ、家族って言うんだよ。
 血の繋がりなんかじゃなく大切な人を家族だと認識する僕ですが、圭輔に寿人がいて良かったと心から思う。だからこそ、未果を守れなかったことが悔しいのだがな。







代償
伊岡 瞬
KADOKAWA(2016/5/25)
posted by SuZuhara at 10:36| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月14日

掲載禁止



 人が死ぬところを、見たくありませんか……。


 最近知り合った方がいろいろと本や映画を勧めてくれるのですが、それがどう見てもグロテスク一色で笑うしかない。
 こういうの話せる相手ができて嬉しいと喜んでいただけましたが、僕は別に好きなわけではないのである。僕はこの週末にグレイテストショーマンを観に行くのを楽しみにしている人間なのである。


■感想
 『放送禁止』でお馴染みの長江俊和監督の小説。『出版禁止』の方が有名でしょうが、ちょっと長編を推理する元気はないので短編を本屋で見つけてBUYしたぜ。
 前知識として私は放送禁止はほとんど見ていない。DVな大家族の話を一度兄に勧められて見て分からず、解説して貰った覚えがある程度。でも、子どもの頃だからほとんど覚えてないんだなー。


・原罪SHOW
 人の死が見られるというツアーの存在を知り興味を持ったジャーナリストが潜入取材を試みる話。都市伝説化と思われたそれが実在し、どんどんツアーを提供する者たちに迫っていくのだけれども……。

 普通に読んでいれば気づくだろうけれども、時系列がおかしい。そして、主人公が最後だけ違う。初めは女性なのに、一人称が僕とか妻とか、旧式のカメラを愛用するとか気づくのは難しくない。
 なら、章を区切るように□で囲まれた文字は何か。
 これは恥ずかしながら時系列順に並べるまでは気づかなかったのだが、Ki→起 Show→承 Ten→転 K2→結になってる。
 ぐいぐい読み進めた転と結。最後に承でネタばらしは繋がった感が爽快でした。
 女ジャーナリストと一緒に死のツアーを追っていきながらも男ジャーナリストと同じ道を辿っていると知った時の恐怖はきついな。Showが承ならば、原罪SHOWはゲンザイショウ→現在承とも取れるわけで、彼女はきっともう殺されているんだろうな。


・マンションサイコ
 別れた男が忘れられずに天井裏に隠れ住むことにした女の話。初めこそ悪質なストーカーでしたが、男が新しい女、そして結婚と進むことによって話が変わってくる。
 しかし、この話の問題はそこではなかった。

 親の遺産を食い潰しての天井裏生活。正直、ここまでできるとほど誰かを好きになれることには憧れますが、ストーキングがプロすぎる。浴槽の天井とか知らなかったよ。
 天井裏に住み、穴まで開けて元彼の生活と一体化し、新たな彼女とのベッドシーンも何もかも全て彼女は見ていた。
 けれども、途中で相手が変わっているとは気がつかなかった。

 元彼が結婚した相手が夫を殺そうとしていることを知ったところで一度話が区切れている。
 赤ちゃんの母親どのが天井裏に侵入した描写がちょっとあれとは思ったんだけど、まさか月日が経っているとは思わんさ。
 元彼が殺される一部始終を見た彼女は彼を求めて天井裏に住み続け、次の入居者の家族も見ていた。そして、赤ん坊を奪い、生きていくことを決めるというサイコだったなー。


・杜の囚人
 これは何というか映像作品で見たかったな、と。
 二人の兄妹の暮らしを妹が撮影しているのだが、この二人は兄妹などではなく、男が忘れている殺しを思い出させるために妹の振りをして記録しているというもの。
 なんだけど、実はこれは逆で殺したのは妹の方。しかも、実は男。

 実にこんがらがってしまって俺の理解は追いついていませんが、宗教組織を作った教主・越智修平は妹の振りをしていた男でもなくて、兄貴の方も殺したのは本当の仇じゃないというなんとも後味の悪い話でしたなー。


・斯くして、完全犯罪は遂行された
 これはなかなかに面白かった。洗脳洗脳のオンパレードで、何が本当の目的なのか考えるのが楽しかった。

 十五年前に親友だった男に奪われた彼女が戻ってきたのだが、彼女は洗脳から解放されたのではなく愛する夫のために死ぬための計画を遂行していた。
 元彼への料理に薬を混ぜて興奮状態にさせてDVの事実を作り殺されるように仕向けるというもの。男ももう冷静な判断ができないのか、何にも代えがたいとまでに愛していたはずの女をミンチにして公園の鯉の餌に。
 女が仕組んでいたことで犯罪は露見してしまうが、裏にいるのは女の夫。自分をバカにしたかつての友を排除し、金を手に入れるという目的なのだろうと思うが、そうするともう一人登場人物が余る。夫が見つめていた紫音という女がいる。
 金を手に入れた夫は紫音に促されるままに首を吊る。

 斯くして、完全犯罪は遂行された。


・掲載禁止
 過激な活動が噂される『品格を守る会』の代表タナカに密着取材をする女の話。初めはタナカの異常さに圧倒されるが、実はこれはやらせだということが分かる。
 ここまで読んでいれば、そう言いつつも実は本物なんでしょうということは想像できるものですが、これは分かってても怖かった。そこから二転三転としていくわけですが、まさか本物の代表が女の方だったとは。

 原罪SHOWでもそうでしたが、マスコミやジャーナリズムに対する敵意というか殺意は怖いわな。
 お気に入りってわけじゃないんだけど、やらせと仕組んでいたはず相手にこんなことを言われた日には心臓止まる。


「これはやらせなんかじゃない。……残念ながら、俺とあんたは違うんだ」


 二転三転と転がる様子は楽しくもあり、後半に行くと少々疲れもしていました。出版禁止も読みたいところですが、僕としては検索禁止の方が好きそうなので本屋で見かけたらちょっと買ってみようと思います。







掲載禁止
長江 俊和
新潮社 (2018/2/28)
posted by SuZuhara at 22:26| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする