2016年12月31日

夜葬



『まもなく目的地です』


 やっと私も休みに入りましたが、今年も振り返るだけの時間はなかったな。
 でも、ちゃんとFGOソロモン戦は参加してたんだな。お宝ドロップ柱戦、俺が欲しい大騎士勲章を落とすアモンは人気がない。具合的にがっつけないけど必要数確保はでき――おいちょっとワンターンキル陣来るの早いよ集まってないよ!と泣きつつもこのエンディングにリアルタイムで立ち会えたことは幸せでした。やはりFGOのためだけに携帯新調したのは間違いじゃなかった。
 失ったものはでかくこの心に開いた穴が埋まることはないように思う。けれども、今も隣に大切な後輩がいてくれることに今は感謝したい。今日のアニメ観たら初めの出会いに泣きそうになるかもだけどね。
 ……しかし、マシュの好感度からの接し方の違いはいいものだ。だんだん独占欲というか、先輩の正式なサーヴァント押ししだすのが可愛い。フィギュアポチったのは正解だと思っているが、再臨後の正式な鎧姿の方が好きなジレンマ。
 では、これで今年最後だ。いつも通りにえっちゃら行こう。


■あらすじ
 ある寒村に伝わる風習に夜葬というものがある。死者の顔をくりぬき地蔵にはめ込み、顔をくりぬかれた穴に白米を盛って食べるという。その死者をどんぶりさんと呼んだ。
 『最恐スポットナビ』という本を目にした途端スマホに届くメッセージからやって来るどんぶりさん。日本各地で次々と起こる行方不明者と顔のくりぬかれた遺体。
 三緒は仕事からその事件に触れ、そして狙われることになる。


■感想
 以前に読んだ『きみといたい、朽ち果てるまで 〜絶望の街イタギリにて』の巻末書評で選考会に残った中で多少難はあってもダントツで怖いとされていたので買ってみた。
 けど、ごめん。私にはこれよく分かんないや。怖さを考察したいのにホラーに触れれば触れるほどよく分からなくなる。困ったもんだ。

 ざくっと説明すると、いつの間にか手にしていたホラー雑誌『最恐スポットナビ』の記事を読むとスマホのLINEならぬLIVEに文字化けした通知が届き、勝手に起動したナビがなにかが近づいてくることを告げる。それがどんぶりさん。
 登場人物たちは基本的に知らぬ間にそれを読んでしまい、狙われる。勿論、刑事とか手掛かりを求めて読む人もいるけどね。

 主軸となるのはテレビ制作会社の新人・三緒とコンビを組むことになる袋田。連続殺人事件――顔をくりぬかれるものの情報を持っているという男が接触してきて、それに関わることになる。
 本の存在、ナビが起動すること、どんぶりさん――と知っていくのはなかなか面白かったが、如何せん、怖くない。

 狙われている人物が発狂寸前の状況であっても「来てる、来てる、来てるぅ〜!」とか、先輩の無残な状況でも「袋田しゃあん、袋田しゃあん」はない。文字に萎えるとしか表現できないがっかり感だ。
 そもそもとして、私には<顔をくりぬかれる>という状況が分からない。初めは皮を剥がれているように想像したけど、地蔵に埋め込まれた顔が目だけ動きを追っているというところがあって、となるとパーツごといってることになる。でも、顔しかないのに話せるってすごくないか。
 しかし、くりぬいた穴をどんぶりに見立てて米を盛るからどんぶりさんなのであって、頭蓋骨も全面的にいってるってこと? どんぶりんの武器である園芸用のシャベルで?

 この辺わっかんないんだなー。
 お化け、怪物――怪異って呼んだ方が適当か。それがどんなに荒唐無稽でも構わないけれども、私の想像力じゃ理解が追いつかなくて疑問が勝ってしまった。
 あと、どんぶりさん自体よく分からないんだよなー。
 わりと行き当たりばったりにどんぶりさんの対処法が分かるけど、どんぶりさんが持ってるシャベルを奪ってとか無理ゲーじゃないか。ま、出来ちゃうんだけど。どうやって勝ったのかは描かれないんだけど。
 呪いの始まり、終局が描かれないまま再び始まる。

 ずっと疑問にばっかり思っていたから残念ながら恐怖はなかった。「袋田しゃあん」は精神病院に入っても結局どんぶりさんになってるとか、攻略法ないから助からないねこれ。伝染経路も分からんから、「私の所には来ないでください」しかできない。ガラケー刑事は突破口になるかと期待したんだがなー。

 では、ここで今回のお気に入り。
 今回も特になかったりするんだが、気になったことところを一つ。
 助けを求めて来た有加里が自分の前から消えたことが堪えていた三緒は手掛かりを必死に求めていた。理不尽を受け入れることを拒み、自分に出来ることに手を伸ばそうとしていた。


 ――でも、身近な人は特別でしょ。自分のそばから急に消えちゃった人は特別だよ。


 さて、これはどうなのだろうか。
 それは特別じゃないと私は思う。危険に跳び込めるだけの、防衛本能を越える一歩はを踏み出せるとは思えない。
 結局誰にも共感できなかったというのが、一番この作品に乗れなかった原因かなー。






夜葬
最東 対地
KADOKAWA (2016/10/25)




posted by SuZuhara at 15:09| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月24日

PK



「あなたが死んだら、世界中が助かります、と言われたら、どうする? その勇気ある?」


 そろそろ今年を振り返ってみようか。
 今年はあんまりゲームに恵まれなかった気がしますが、ダントツで私的今年一番は『うたわれるもの』でしたね。遊びもふんだんに入れつつ最高のクライマックス。クリア後も楽しませていただき、最後のハクとクオン絵はホントずるい。
 FF15はまだクリアしてませんが、次点はルフランかP5。P5は自由度低くて不満がありますが、これからの展開は期待。ルフランのブラックさはかなり大好きでした。
 来年はあまりゲームには手を出せそうにありませぬが、今年も大分楽しませてもらったなー。


■あらすじ
 まるで秘密結社のような存在に行動を強制された大臣は悩んでいた。決断するために過去に重要な試合で不調ながらもPKを決めることのできた選手を探していた。「PK」
 過去に助けられた青年は予言メールを受け取り、未来に殺人を犯す人物を殺していた。だが、予言メールに過去に自分を助けてくれた人物が現れた時に悩むことになる。「超人」
 握手した相手の時間を奪うことができる男と世界のために死ねと言われた男。「密使」
 三つの物語はゆっくりと繋がっていく。


■感想
 久々に伊坂さんの作品です。今回は連作短編ですが、読んでいた抱いた齟齬は最後まで読むとすとんと落ちる。なかなか面白かったです。
 最近また長く書いてるのでざくっと書けるように心がけます。

 単体として読むなら「PK」が好きですね。勇気を貰いたくて探していた人。本人はあずかり知らぬところですが、その選手の過去に勇気を与えていたのは自分だった。
 次郎くんの件とか震えてしまうのである。

 次の「超人」は齟齬に悩む。
「PK」での大臣が過去に落下した乳児を助けているんだが、その青年になった乳児と大臣の再会。けれども、青年は予言を阻止するという信念を持っていた。それが例え恩人でも――。
 ちょこちょこっと「PK」で語られていたこととは違うことが語られる。あれぇ、と思って読み進めるが、やっぱり違う。

 その答えが「密使」。
 過去にタイムトラベルでゴキブリを送り、ちょっとだけ世界は変わっていた。大臣の父親の浮気がバレるか否かの分岐点とかね。「PK」と「超人」の世界の違いはゴキブリが送られたか否かということ。
 うーん、なるほどなー。私は伊坂さんの本では「フィッシュストーリー」が好きなんだけど、繋がっていく感じはそれに似ていました。でも、「バイバイ、ブラックバード」のような先を先をと急かされるような感覚はなかった。ブラックバードにもう一度会いたいぜ。
 伊坂さんは政治絡みの作品が目立つけど、これはSFなので肩肘張らずに楽しめました。

 では、ここで今回のお気に入り。
「密使」より、時間のスリ能力を持つ僕があなたの力を役立ててほしいと言われた時の決断。
 差し出された得体の知れない手を取るか否か。


 が、やることにした。
 自分の力を役立てたい。それは僕に限らず、あらゆる人間の欲求ではないか。自己表現の問題だ。ヒーローの役をやってばかりであったから、そのあたりの感覚が麻痺していた可能性もある。


 私は結局他人の気持ちは分からないけれども、自分の気持ちなら分かる。それがどんなに滑稽で偽善で馬鹿馬鹿しくたって、誰かのためになるのなら、という行動原理を捨てることはできないんだ。
 損な性分だよな、こういう奴らはさ。






PK
伊坂 幸太郎
講談社 (2014/11/14)
posted by SuZuhara at 09:34| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月20日

きみといたい、朽ち果てるまで ~絶望の街イタギリにて



 海が見たいな。
 薄れゆく意識の中で、君はそう言ったね。



 フハハ、油断したらまだ潜伏していた風邪に倒されたぜ。もう今週は安静にしてませう。
 でも、FGO7章はクリア済みだからソロモンは参加するよ。剣スロットとジャックのおかげで楽勝でした。最後の方の数が多いアレは式さんが即死狩りしてくれたし。
 7章はギルが王様していて格好いいが、エレシュキガル追加まだですか? キングとか来たら財布を開かざるを得ない。……ま、開いても課金する勇気なんかないがな!


■あらすじ
 世界からはじき出されたはぐれ者たちが集まる街・イタギリで生まれた晴史はゴミ屋としてイタギリの街のゴミを集める仕事をしていた。大先輩の竹林老人と新人の樹戸と毎日吐き出されるゴミと死体の片づけをする日々を過ごしながら、晴史の楽しみは路上で絵を書く少女に会うことだった。
 話しかける勇気のなかった晴史だが、少女からの一言から命を救われて少女・シズクと知り合うことになる。
 死体から臓器を奪う肝喰いに娼婦狙いの殺人鬼、身体が死んでも脳だけが動いている状態のシナズがいる絶望の街で晴史は初めての恋をする。


■感想
 以前に感想を書いた『この世で最後のデートをきみと』の作者さんの第23回日本ホラー大賞優秀賞受賞作です。
 デートの方とは違って架空の街・イタギリでの小さな恋の物語はなかなか好みでした。

 アンダーグラウンドな世界を想像してもらうのが一番手っ取り早いと思うが、殺しや薬などが普通にある最下層の街で晴史はゴミ回収としてゴミ屋をしていた。
 晴史の年齢は断言されていないけど15くらい。ゴミ屋は班構成で竹林老人=チンさんと新人の樹戸と回収するのはロク(死体)。別料金だから手当てがいいのである。腐敗した死体描写が多いので苦手な人は注意。
 初めてのことに吐く樹戸といびるチンさん。チンさんのオカマキャラはとても興味深かったですね。結構好きだったんだがなー。

 ゴミときどき死体をおんぼろリヤカーで回収しながら晴史は唯一の楽しみとして帰り道に極楽通りを選ぶ。娼婦たちが立ち並ぶ通りで絵を書く物売りの少女。彼女をみることだけが唯一の楽しみだった。
 ろくに家に金も入れずに酒ばかり飲む父と過ごしていたら、そうもなるよな。仕事終わったら飯を作り、そして本を読む。そんな晴史の生活で本を読むことを父親にケチをつけられれば怒りも湧くというものだ。

 チンさんは顔がきいてよく死体運びの仕事を回してもらうのだが、その日の死体は違った。動く死体=シナズである。人を襲ったりはしないが、死んでいるのに脳は生きている状態。罪を犯した者がなるようなことが言われているが詳しいことは分からない。
 そんなゾンビと復活する連続殺人。用心棒のような存在で晴史の兄貴分の月丸は娼婦たちを狙う殺人鬼を追っているのだが、この街には今はなりを潜めているが臓器を奪っていく殺人鬼・肝喰いまでいた。
 この辺りまではイタギリの街に迷い込んだかのように警戒していましたが、チンさんが亡くなったあたりから事情が変わってくる。

 絵描きの少女にチンさんは自画像を描いてもらう。そこにかかれた「余所行き注意」の文言。その後に樹戸から出掛けた後にチンさんが倒れたと聞かされる。
 チンさんの過去は想像に難くないけれども、後にチンさんの双子の弟からネクタイの結び方が違ったという言葉からお分かりいただけるだろう。

 シズクから夜道についての注意を受ける晴史は夜道で襲われることになる。だが、注意の言葉から反応することができ、シズクに連れてこられた月丸によって捉えられ、怪我と熱とかいろいろなものに浮かされてずっとシズクのことが気になっていたことを告げる。
 そこから晴史とシズクの交流はスタートする。基本、動物などの死体ばかり描いているシズクだったが、晴史が文字の読み方を教えていたりして少しづつお互いを知っていく。

 まあ、二人にそんな悠長な時間は残されていないのだが。
 娼婦狙いの殺人鬼を捕まえるため、シズクの能力・描いた絵の人に起こるものが見えることがあるという力を使い、殺人鬼を捕まえられずとも未然に防いでいた。
 その一方でチンさんがいなくなり、班は晴史と樹戸の二人で仕事を行っていた。樹戸は小説家志望で賞を取ったことのある人。賞の受賞から嫁と娘を放り出して書き続けたが実らず今に至るといったところ。うんちくばかりの言葉が晴史には分かりにくいのだが、徐々に見えてくる物がある。

 まず殺人鬼は黒いレインコート、死体運び時に配布されるものを着ている。チンさんが死んだのは樹戸が居候していた家。結び方の違うネクタイ。

 シズクが客を取った。絵描きの仕事? まさか、分かっているだろう。娼婦たちが集う場所で子どもだとしても売る者は身体に決まっている。
 晴史が慌ててシズクの家に乗り込んだ時、そこには裸の樹戸がいた。シズクを滅多刺した殺人鬼、殺しというリアルな感覚を求める小説家志望の男。

 妻と娘に捨てられた? 殺しただけだ。自分に平凡な話しか書けないのは平凡な経験しかないからだ。なら、といろいろとやった殺人鬼。殺しの描写はいろいろ読んだけど、まさか卵巣の味の感想を聞くことになるとは思ってもみなかったなー。
 晴史のお気に入りだから、とシズクを殺すのを我慢していたというが晴史のせいで獲物を物色できなかった。でも、我慢できなくなって殺した。

 そんな樹戸を殺したのはシズクだった。
 シナズになったシズクは滅多刺しにされる樹戸を見ていたから誘ったらしいが、自分もされるとは思っていなかったらしい。
 だが、罪深い者と言えば樹戸こそでシナズになって暴れる。
 新しいことを覚えられない月丸さんが駆け込んできてくれたのはホッとしたなー。日々の積み重ねで樹戸に辿り着いてくれたこの人はイタギリで唯一と言っていいほどマシな人だから。

 ここから語られるシズクの話はなんとも言えない。
 双子の妹を見殺しをしたこと、母親の麻薬代のために身体を売って、そして母親の食事のために客を殺して肝を奪う肝喰いであったこと。
 もう助からないシズクの願いは死んだ妹が腐っていく模様を最後まで書けなかったから、と自分の身体を開いて九相図を描くこと。

 腐っていく好きな子に付き添う晴史の気持ちはどんなものだったのか。昔に身体が生きたまま腐る奇病にかかった女の子の話を読んだが、最後まで見守ることは純愛なんだろうか。そんなことばかり考えていた。
 なら、殺すのか? いや、シズクはもう死んでいるし。蛆が湧き腐って臭いも酷く眼球もなくなって干からびた好きな人を見続ける苦行は、君が望んでくれれば幸せな時間なんだろうか。

 シズクに関して言えば、身体を打っていたことが僕にはショッキングだった。
 処女に絶対のものを感じているわけじゃないけれども、むしろ身体を売っていることなんて分かっていたのに、身体を開いたあとで子宮とかに「いっぱい働いてくれたから」という言葉をかけられたことが俺は泣きたくなるくらい苦しかった。
 あんな母親に、ミイラになってもシズクが縛られていたことが悲しかった。

 晴史はシズクの願い通りにシズクを焼く。そして骨を食されるんだけど、これは何故か。
 腐らなかったシズクの左手だけ懐にしまい、晴史が向かったのは自宅。過去に母親を殺し、今は働きもせずに晴史の金を食い潰す父親。過去に罪を犯して手を切られる「手切り」のことを聞いた晴史は腕のない父をどう思ったかは分からない。
 けれども、やることは一つ。ハンマーを振り下ろす。頭蓋骨が砕けるまで、脳漿が飛び散るまで、死ぬまで。

 そうして晴史はイタギリを出た。シズクが見たがった海を見に。

 大分語りすぎたがこんな感じ。
 読み始めた当初は、架空の世界に馴染むのに時間がかかったのですが、イタギリのことゴミ屋のことと面白かった。シナズは興味深いけれども、ちょっと説明がくどかったかな。私は簡単な人間だから、そういうものだと思わせてくれればそれでいい。住職と医者の説明、どっちかだけで十分だと思うんだ。
 でも、だからと言ってシナズの話がもっと読みたかったとかそういうのもないから完成されてるんだろうな。

 しっかし、人には勧めにくい作品だ。私はすっごい好きですけどね。めっちゃ楽しかったですけどね。この作者さんなら次回作も買おうと思うよ。

 では、この辺で今回のお気に入りへ。
 シズクと仲良くなった晴史が抱いたささやかな願い。父親のこと、仕事のこと、疲れた心を癒してくれる大切なひと時。


 ――街の暮らしは面白くないことばかりだけど。
 この時間だけは、変わらず続きますように。


 なにをどうすればよかったかなんて想像もつかないけれども、この幸せはどう足掻いても続かなかっただろうな。
 けれども、そんなことを晴史が願えるようになったことが嬉しかったなー。






きみといたい、朽ち果てるまで ~絶望の街イタギリにて
坊木 椎哉
KADOKAWA (2016/11/26)
posted by SuZuhara at 13:16| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月07日

この世で最後のデートをきみと



「死にたくなったら教えてね」


 ……はい、風邪びきまじた。
 先週辺りから体調悪くてぐったりしているのですが、「どうせFFやってて寝てないんだろ」とあらぬ疑いをかけられる。ネットも手をつけていなかったら「FFやってる」と言われまくる。
 待て待て、私は今回買う予定はないんだって。もう、そんな風に決めつけられるなら買ってやるんだからな! ま、買っただけでやれていないのが現状ですが。
 喉をやられてしまったので水を飲むのもつらいのですが、つらくて眠れないなら夜通しゲームしてればいいのだよ。明日も仕事だなんて知ったことじゃねぇのだよ。


■あらすじ
 ラミネート加工された黒いメニューカードを持ったデートガールにとある符牒を言うと五十万で自殺の手助けをしてくれる。そんな都市伝説のように噂で囁かれるデートクラブ『あずらえる』で夜見川麻耶は死を求める客と最後のひと時を過ごす日々を送っていた。
 あずらえるにはそれぞれ事情を抱えたメンバーが揃っていたが、麻耶の危機を救ったことから知り合った青年・宮垣隼人も麻耶に殺してもらうためにあずらえるで働き始める。
 自身の痛みから目を逸らして愛を振りまく少女を壊れた正義感に憑りつかれた青年が救い、救われる物語。


■感想
 あらすじは私の勝手な解釈です。
 宮垣を表現する言葉とか思いつかないや。無感動ってわけでもないしね。

 さて、この作品はジャンプホラー小説大賞を受賞した作者さんの作品とのことです。個人的に猟奇純愛ホラーってところに惹かれたんだけど、そこまでグロくないし怖くもないので大丈夫かと。死体描写くらいなら平気だろう?

「美味しいティラミスはどこですか?」
 黒いメニューカードを持ったデートガールに尋ねると裏メニューとして五十万で死ぬ前の最後のデートを楽しめる。
 死に方もリクエストを聞いてくれる良心設計。私は自殺したいけれどできない、という心情になったことがないので客の心理は分からない。引きこもりが親に見放されて残されたクレジットカードのキャッシング枠を使い、女子高生の格好をした肉団子になって死にたいなんて分からないよっ!
 冗談は置いておくとしてもすっげー客だった。
 散々デートを楽しんで、死ぬときは麻耶ちゃんと一緒にと言い出した時は殺意が目覚めたけどな!

 電車に飛び込み自殺するところに巻き込まれそうになった麻耶を救ったのが宮垣青年。
 しかし、「死なせてほしい」と付きまとわれることになり、宮垣にあずらえるのことを知られてしまう。ボスである嘉神は今年いっぱいという契約で雇うことに。そして、その後に死ぬ。

 あずらえるには、殺人などの曰くつき家具販売店とデートクラブを経営するボスである嘉神にデートガールにあたる少女たちが三人いる。女子高生な麻耶にいつも人形を抱いたミーナ、無口なシリカ。あとは始末を担当する男が三人、ここに宮垣が加わる。
 あとで分かることだが、麻耶とミーナには好きになった相手を死にたい気持ちにさせる特異体質の持ち主。ミーナは性的なものなので毒は強くとも男限定で、麻耶は老若男女。どっちが性質が悪いなんて言わずもがなですな。
 シリカは二人とは別で父親に改造され、殺戮衝動しかなくなったお人形。チーズケーキが小さかった理由を思うと悲しくなるね。

 男性陣にもいろいろとあったりしますが、宮垣は死体の処理にも動じない男だった。シリカが始末し損ねて生きていたってとどめをさせる人間だった。

 麻耶はろくに会話もできない母親に貢ぐ毎日を過ごしているが、徐々に分かっていく背景には目が離せなかった。
 優等生だったクラスメイトの裏の顔、宮垣の奇行、そして母親の真実。

 ママと呼ばれるその女は母親ではなかった。
 麻耶の母親は小さな子どもであった麻耶を傷つけ、他人がいる時だけいい母親になるような人間だった。だから、麻耶は傷つけられる=愛だと認識してまう。デートの前に客に自分を傷つけさせるのはそのせいだった。
 実の母親は麻耶を愛するようになって今までの仕打ちを悔いて自殺した。ぷらーん、である。首吊りは自殺方法としてはよろしくない。残す人がいるなら特に。

 麻耶はその後施設に行くが、園長だったかな? そこでも愛されたら死んでしまい、その後母親になってくれた五人の女性もみんな死んだ。愛されたいのにみんな死んでしまう。全員のママが高校くらい出た方がいいというから今に至るというわけ。
 六人目のママは麻耶のヤバさを察したのか、一緒にいてむしり取るだけの存在だった。マサトが殴ってくれるから大丈夫だよ。

 ふしだらな女をグーパンするマスク男だったマサトの拳は麻耶にも向かうが、宮垣が助けてくれます。危機一髪が多いね麻耶は、なんて思う暇もなく、まだ脱してはいない。
 宮垣に連れてこられた家は麻耶のクラスメイトの優等生の家で、家族全員死んでいた。

 彼女は金持ちの愛人をしていて身ごもってしまっていた。
 お姫様のようにちやほやされたかった少女はラッキーと思った。男に言ったら手切れ金を握らされ、親に言えば勘当。コンナハズジャナカッタノニ。
 ひょんなことから宮垣に仲裁を頼んだのが運のつきで、麻耶の客になる前に殺されてしまっていた。娘を叩く父親は大人しくしないから刺され、通報しようとした母親は宥めてもダメだったので鎮めるために刺した。
 彼女を助けたのに詰め寄られたので少女も刺した。汚い言葉を止めるために刺した。

 ……ここ、お分かりかもしれぬがよく分かってしまった。
 僕が今年の初めに見た夢の中の人物と一緒なんだよ。あれが私とイコールなのかは分かりませんが、彼も直結した人間だからね。

 宮垣は自分の認識が絶対なんだろうな。
 助けることはいいこと。それをして仇で返される筋合いはない。
 最後に宮垣の地元の遊園地デートで明かされる宮垣の過去でも幼馴染みの少女・しずかが男たちに犯されているところを、全員殺して助け出したら罵倒されたというもの。
 たぶんなー、宮垣がしずかを神聖視しているだけでそういうプレイを楽しんじゃう子なんだと思うんだ。なのに、殺してまで助けにきた男なんてお呼びじゃない。
 だから、殺した。聞きたかったのは罵りの言葉じゃない。そんなものは聞きたくないから殺してしまった。

 それから宮垣は助けを求めている人がしずかに見えてしまい、助けては罵られた。その度にしずかに罵られるので耐え切れず殺した。何度も何度でも念入りにしずかを埋めた。
 麻耶もしずかに見えていたらしいけれど、助けたらしずかじゃなくなった唯一の人だったので麻耶に死を頼んだのだった。

 これで君のために生きるとか言い出したら興醒めだなとか思っていたので宮垣の最後は嬉しい……は変か。安心して羨ましい。ちゃんと死ねてよかったなぁ。どうか君の心が穏やかでありますように。

 いやー、面白かった。
 ホラー小説に求めた怖さはなかったけど面白い話でした。優等生とかわりと好きで、そういやあいつどうなったんだろう? いや、宮垣の手はあかんでしょうよ。本当に運がねぇなお前wと楽しんで読んでいました。
 反対に麻耶の悩みはちょっとつらかったですね。幼少期に植え付けられた感情に体質から受け入れてもらえない愛。他のメンバーも抱えている悩みがでかいからなー、後谷が一番平穏だったのではないでしょうか。

 この作者さんの大賞受賞作も同時発売だったのですが、こっちも買ってきたのでまた読み終わったら感想を書きます。

 では、今回のお気に入りへ。
 死ぬと決めた宮垣の最後の言葉を。麻耶の目の前でカッターで首を切る前の台詞。


「月が、とても綺麗です」


 私は元文を知らないのですが、夏目漱石の有名なあれですね。
 しずかに対する想いを聞いた時もこの言葉を使っていたから宮垣は分かっていて使っていたんだろうな。不器用な男の精いっぱいの愛の言葉だったのだろうな。ずるいや。







この世で最後のデートをきみと
坊木 椎哉 (著),shimano (イラスト)
集英社 (2016/11/26)
posted by SuZuhara at 22:56| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月03日

ロード・エルメロイII世の事件簿 4 case.魔眼蒐集列車 上巻



 エルメロイU世に届く魔眼蒐集列車への招待状


 ゲームを始める前、主人公にデフォルトネームがないと勝手にそれっぽい名前をつけて始めてしまうのですが、最近になって自分はこの作業にこだわりがあることに気づく。
 字面とか音とかめっちゃ考えてるんですよ、センスないくせに。だからなのか、後から発表されるデフォルトネームが受け入れられないことが多い。すんなりと通ったのは番長の鳴上悠だけだったんじゃないかな。イザナギのジオから鳴神とかかっけーな、と。自分では使ってないけどな!
 つまりなにが言いたいかというと――……P5の主人公の名前が覚えられぬのだ。すまん、ホントすまん。


■あらすじ
 ロード・エルメロイU世が大切に保管していた英霊イスカンダルの触媒が何者かに奪われてしまい、招待状に導かれて魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)で開かれるオークションへと参加することになる。
 そこで起きた殺人事件を調査していたロードは、イスカンダルの腹心たる英霊と向き合うことになる。


■感想
 ふむ、これを最初に読んだのは確か8月下旬だったような。
 ちょうどこの時期にプレイしていたゲームの感想も欠けていなかったりしますが、一つずつえっちゃら書いていこう。

 楽しみにしていたロードの事件簿。同時に発売したFGOマテリアルと一緒に買ったよ。
 今回のロードはイスカンダルの触媒を奪われているので多少取り乱している。スヴェンもフラットも行けない? え、なにそれやだーと思ったところでカウレス投入である。マジか、フランちゃんの件で私のカウレスに対する評価は高いので嬉しい限り。この巻では地味ですが、後半期待してるぜ!

 終始グレイの献身っぷりは可愛いなぁ、と思いながら読み進めていましたが、簡単に行ってしまうと魔眼蒐集列車では魔眼に関するオークションが行われている。
 魔眼が欲しい者も魔眼を手放したい者も参加しており、ロードがここに来たのは触媒を返してほしければ来いという招待状を貰ったから。

 カウレスの外にもう一人、エルメロイ教室からイヴェットが列車に乗っていますが、この人に関しては割愛。まだ情報が少なすぎて整理できていないのと、ピンク髪は簡単には信用できないからだ。

 僕らのオルガマリー所長が若かりし姿で参加していますが、彼女の詳しくも次でだろうな。お付きの未来視が殺されてしまうとか、所長は本当に昔から縁がない。
 ロードはこの事件の調査に乗り出し、そしてとある英霊に出会う。

 イスカンダルの触媒で召喚されたのはヘファイスティオン。
 相っ変わらず歴史に詳しくない私はどんな人か知らないのですが、幼い頃から一緒に育っていて「彼もまたイスカンダルなのだから」の言葉でイスカンダルの触媒でヘファイスティオンが召喚されたということ。
 ここでロードを試すように「次にイスカンダルがお前のことを覚えていなかったら?」と揺さぶってきますが、エクステトラのPVを見ると憶えてなかったら悲しすぎだろうに。彼の王がそんな人のはずがない。

 ヘファイスティオンとの戦闘でロードは重傷を負う。
 オルガマリーちゃんに助けたという恩から薬を貰えますが、一緒に行動する気はない模様。残念だ。

 ここから列車はコースを外れてアインナッシュの子へと入っていく。その間の自衛は自分でしてね!という投げやりな列車側だが、グレイとカウレスの二人でロードを守りきれるのかというところで続くでした。あ、あとロードの特殊な友達参戦のフラグもありました。
 くっ、続きは冬に出ますか? 出てくれますよね!?

 全体的に面白かったのですが、やはり全編だけというのは悲しいな。もしもイスカンダルが憶えてなかったらと思うともっとなしいけど。
 ああ、続き読ませてください続き。

 では、ここらで今回のお気に入りへ。
 特にこれと言ったところはなかったのですが、最初の時計塔での出来事でロードが自分の立場からいつ殺されてもおかしくないと発言を受けてグレイが零した言葉を。もう、こういうのホント好き。


「そのときは、拙が、守りますから」


 ぽろっとこういう言葉が零れちゃうとか、いいよな。
 イスカンダルが係っているからこの先どう転んでいくか想像もつきませんが、ロードとグレイの関係だけは変わらないでほしいな。
 






ロード・エルメロイII世の事件簿 4 case.魔眼蒐集列車 上巻
三田誠(著),坂本みねぢ(イラスト)
TYPE-MOON BOOKS (2016/8/14)
posted by SuZuhara at 22:38| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする