求む奇談!
不思議な話をしてくれた方に高額報酬進呈。ただし審査あり。 買い物リストを大幅に修正。
最近漫画を買っていてそれにハマっていることもあるが、ちょいちょい発売日まで興味が持たなくなってきたので。
だが、いざ発売日が近づくとまた悩むという優柔不断っぷりを私はよく発揮するw
・自分の影に刺された男 仁藤春樹は不思議な話をすると高額報酬をくれるという奇談蒐集家・恵美酒の存在を知り、彼がいるというバー「strawberry hill」に訪れ、そこにいた恵美酒と助手・氷坂に仁藤は自身が体験した奇談を聞かせる。
幼少時から臆病だった仁藤には怖いものが多く、特に自分の影が怖かった。光の加減によって増える影に囲まれているように思えてしまうのが怖かったのだ。そしていつの日か自分の影に「あいつ」という影に潜む存在が自分を狙っていると思い始めた。大人になってからそんな夢想など忘れていた仁藤だったが、ある日、同僚にその話をした後、「あいつ」に刺されることになる。
タイトルに惹かれて購入、久々に短編集です。気合い入れろ、俺。
あらすじ初めのバーに行って恵美酒と会うというのは、最終章以外はみんな共通。所謂、安楽椅子探偵モノというやつらしい。
この話は三人称で始まるが途中、仁藤が恵美酒に聞かせるという形式上、奇談の部分は仁藤の一人称で語られる。これを見た時、私の悪い癖は発動してしまった。私はどうしてもその形式から裏にある狙いを読んでしまうのだ。一人称はその人の視点であるから間違いが起こりやすい。要するに、その人が真実だと思えば嘘も真実として語られるから。
仁藤が話終わった後、恵美酒はまごうことなき奇談だと褒めるが氷坂は違う。彼か彼女かは氷坂の性別は分からないが、奇談に異議を申し立てることによって真相が明かされるというのが大半の展開。
仁藤の話も奇談なんかじゃなく、彼が影を怖がっていることを知った同僚が……という答えを提示され、仁藤は報酬ももらえずに店を出ることになる。
・古道具屋の姫君 奇談蒐集家・恵美酒の存在を知った矢来は自分が体験した奇談を持って「strawberry hill」に訪れる。
貧乏学生だった時、本にしか興味のなかった彼はふらりと訪れた古道具屋で鏡に映った美少女の姿を見る。その話を店主にしたところ、この姿見には江戸時代の姫君の姿が映ることがあるという言葉を真に受けて大枚をはたいてしまう。
だが、その鏡を買った夜に姫君は矢来の元に訪れて再会の約束をする。そして、矢来が大学の講師をしていると彼女そっくりな生徒が現れて結婚することになる。
運命の人と言わんばかりの出会いをした経験を結婚記念のプレゼント代にしようとしていた矢来は、またも意義を唱えた氷坂によって打ち壊されることになる。
端的に言えば、運命でもなんでもないと。
氷坂曰く、鏡に映ったのは古道具屋にいた実在する人間で主人によって幽閉された少女。矢来同様、一目惚れをした彼女は主人を騙して矢来を殺すよう促し、それを請け負うことで自分は矢来に存在を植えつけて邪魔な主人を殺して自由になる。そして、少し経ってから出会うことでそれは運命に……という悪女説を語ってくれる。
おかしい。読み終わった瞬間、そう思った。
この時の違和感は徐々に増していくことになるのだが、言ってしまうと時系列に違和感を覚えた。どう考えても、矢来の語る過去は現在初婚の人間の過去の域ではないから。
ま、矢来の年齢は明かされていないから何とも言えないが、前回の市役所勤めの仁藤と同じ時代だとは思えなかった。
以降の話もそんな感じで、頭の中でごちゃごちゃ並べ替えながら読んでました。
・不器用な魔術師 シャンソン歌手・紫島はまだ駆け出しだった時代、フランスで経験した奇談を語る。
そこで出会った青年・パトリスは手品を「魔術」と言い練習を重ねていたが、不器用なためにいまいち上手くならない。そんな彼と仲良くなった時、ふと彼が本当に魔術を使っているところを見てしまい、彼が魔術を隠すために手品を覚えようとしていることを明かされる。
その後、大晦日に家を出ろと言われ彼との最初で最後のデートを過ごした日、彼女のアパートは燃えていた。
ロマンチックな恋物語の裏側で実はあなたは騙されていたのですよと明かされるよくある話。
ざっと言うとパトリスが紫島に接近したのは彼女の隣の部屋の人物を殺すためで、大晦日デートも彼女が家を空けることで仲間が犯行をしやすく……というもの。
紫島は頭のいい人なので勘付いていたようで納得して帰りましたが、読んでるこっちは恵美酒たちの胡散臭さが高まるばかり。所詮、氷坂の説だって想像の域を出ないはず。本当に真実を言い当ててるとしたら、こいつら人間じゃない何かだろうと思ってこの辺から警戒しまくってました。
だいたいなっ、氷坂が男か女か分からないから俺のテンションが上がらないんだよw 私に恵美酒というオヤジを好きになる趣味はないのだよ。
・水色の魔人 子どもの頃、草間は少年探偵に憧れていて当時世間を騒がせていた雨合羽を来た誘拐犯「水色の魔人」の正体を探っていた。だが、その遊びの途中、水色の雨合羽に襲われた草間は逃げ出そうとしたが仲間の二人が追って行ってしまい、その先には雨合羽と子どもの死体だけが残されていた。の下に子どもの物語は八軒勇吾の高校生活の始まりから。
この話が一番むごかった。
少年時代の遊びで死体を発見してしまったのもあれだが、氷坂から語られた説も。氷坂曰く、この犯人は仲間のリーダー格の兄。草間は恐怖から詳しく見ていなかったため兄の姿を見ていないから、仲間の二人が口裏を合わせて兄の存在を隠した。そして、草間の元妻と娘は今その兄と……。
な、悪夢すぎるだろ?
とんでも話だが、自身もとんでも話を持ち出している以上冷静ではいられないのだろうな。自分は騙され、狂気の存在が愛していた家族とともにいるなんて、私なら発狂するし耐えられない。
・冬薔薇(ふゆそうび)の館 智子は高校時代の冬に発見した薔薇園でその館の主人を名乗る青年に会う。そして、逢瀬を重ねるうちにずっと一緒にいたいと言われ決心を固めるのだが、あまり仲の良くなかった母が倒れたことにより約束を破ってしまう。
後日、薔薇園に訪れると青年の隣にはもう違う女の人がいた。そして、庭師は智子に「あんたは薔薇になる機会を逃したのだ」と言う言葉を残した。
うたわれるものをやりこんだ私にはカルラを思い出した。そして案の定、カルラを狂愛していたあの敵がしたことと同じことをして成り立っていた薔薇園だったという話。
つまり、薔薇の栄養素は人間。選ばれた女は本当の主人である庭師によって薔薇のために殺される、と。
狂気の沙汰と言えなくもないが、『アリス・ミラー城殺人事件』の犯人の所業に比べるパンチが弱い。あの人は私が小学生時代に思ったことを大人になって実行してしまったから、もう笑うしかない。リトマス紙が異様に好きだっただけのガキがあんなこと考えていた時点でどん引きではあるのだがw
・金眼銀眼邪眼 小学生の大樹は公園で出会った猫・ヨミとナイコと名乗る少年に言われ、一日だけ家出をする。そこでナイコの言う「夜の子ども」を体験するのだが、邪眼故に怖れられるナイコの姿を知り、ヨミを預けられることになる。
あらすじがぞんざい? ははは、だって私この話よく分かってないから。
小学生が語っているという点もあるせいか、非常によく分からない。この物語は現代なのだろうが、現代で目の色のことで邪眼と差別されるとは思えないんだよなー。
妹の事故に関する話は至って現代的なのに、邪眼というファンタジーが入っていてちぐはぐな感じ。いや、うやむやに終わらせようって感じかな?
でもな、どうやらこの納得したようなできないような感覚が狙いなようですよ。
・すべては奇談のために ライターの山崎は奇談蒐集家の話を聞き、その存在について記事を書くことにした。調べていくうちに様々なところから奇談蒐集家の話を聞き、そして誰もがバーの場所が分からなくなってしまったと語るという不可解な現象にぶちあたる。そして、過去の本にも彼らのことが書いてあったりと不気味な存在であると分かった時、山崎の前に「求む奇談」の広告が目に入った。
話は一点、最後のシメです。
奇談蒐集家という存在そのものに疑問を抱いた山崎は今まで語られてきた人たちから話を聞くことに。と言っても全員から直接ではなく、伝聞だったり本だったりと。時系列がおかしいっていうのは正解だったのである。
では、簡単に彼らのその後、一部本当の真実をまとめる。
・仁藤、同僚に襲いかかり自宅謹慎へ。妻と子供は実家に帰る。同僚に氷坂が語ったような事実は一切なかった。
・矢来、戦前の評論家。妻とは離縁。
・紫島、調べている途中に亡くなる。手記に感謝しているという内容の文書あり。
・草間、元妻の再婚相手を殺人犯と告訴。だが、事件の真相は嫌味な草間を懲らしめようとした仲間二人が水色の魔人を作り上げたら、偶然そこに死体があった。
・智子、人生の見方が百八十度変わり浮気をした夫と離婚へ。だが、子どもを抱えてなんとか凌いでいる生活。
このことから、大樹を使ってバーの場所を知った山崎はこの奇談蒐集家の奇談を持って恵美酒の元へ。
だが、それこそが彼らの目的であった。自分たちが奇談になるそのために、山崎のような語り手を探していたのだった。そして、彼らは消えてしまう。
正直、読んでいる内に予想できる結末だった。しかもあっさりとしているため恵美酒や氷坂に愛着が持てず、終始他人事として終わってしまった。ま、私が読者として性質が悪いのもあるのだが。
底冷えするような恐怖の話ではないが、一つ一つは物語として面白いので信じていたものが一瞬で覆され絶望する人の姿は中々に壮観。願わくば、読者として最後に同じ境遇に立たせてほしかったのが。
では、ここでお気に入りへ。
といっても今回はなかったので氷坂が繰り返すとある言葉を。
「本当に不思議な話なんて、そう簡単に出会えるものじゃない」
だからこそ作ろうとしたのだろうが、できることなら彼らの背景を知りたかったな。でも、そうすると物語の謎が成立しなくなってしまうから困る。
でも、氷坂が男は女ぐらい教えてくれたっていいじゃないかっ! 女じゃなかったら空間がむさすぎるぞw

奇談蒐集家
太田 忠司
東京創元社 (2011/11/19)