2012年03月31日

仮面山荘殺人事件



「あたし、朋美は誰かに殺されたのだと思ってます」


 長らく楽しみだったP4アニメがついに終わってしまいましたが、最高に楽しい時間でした。真EDはBDでの流れは、てか8月ってのが残念で仕方がないですが、P4GもドラマCDもあるので楽しみに待つばかりですなー。
 しかし、あの最終回でプレイ済みの方は皆が思っただろう。頼む番長、大神だけは出さないでとw


・あらすじ
 婚約者の朋美を事故で失った高之は家族になるはずだった森崎一家別荘に来ていた。親族や親しい者だけで朋美の傷を舐め合うかのように行われた男女八人の集まりの中で、朋美の親友・桂子が殺されたのではないかと言い出し、微妙な空気が流れる。
 そんな中、逃亡中の銀行強盗が別荘に侵入し人質として捉えられてしまう。逃げようと試みるがそれら全てが不自然に妨害されて失敗し、一人の犠牲者が出てしまうのだが、その犯行は強盗たちでは無理なものだった。


・感想
 また自分の最低な部分を晒すことになるが、疑心暗鬼モノって結構好きなので購入。
 ちょいちょいと枠の外というか、他人行儀なところがひっかかって犯人は意外に早く分かってしまいましたが、こういう終わりだとは。私的には不完全燃焼が否めないが、手をくだしてない以上こうすることしかできないのでしょうな。

 さて、物語は結婚間近の幸せカップルから。
 だが物語は一変、新婦となるはずだった森崎朋美は式場の打ち合わせ帰りに事故を起こし無くなってしまった。
 高之は家族となるはずだった森崎家に誘われて恒例の夏の別荘地に行くことに。

 いくら愛した女とは言え、もういない彼女の家族との触れ合いや彼女が使っていた部屋を宛がわれるというのはどういう気分なんだろうか。前者は良くとも、私は後者は無理だ。思いだすとか、そういうレベルではない。
 そんな風に高之に同情しながら読んでいましたが、別荘に参加者が集まったところで「朋美殺人説」が浮上。
 親友の桂子曰く、運転に慎重だった朋美が事故を起こすわけがない。

 これには過去があり、それが高之と朋美の出会いだった。
 スピード狂であった朋美が高之の車と事故を起こし、高之は大丈夫だったが朋美は足を失い、バレリーナという夢も失った。このことから自殺をもした朋美だが、高之との出会いにより恋をし結婚となるはずだった。
 そんな事故の経験がある彼女だから、今回の事故は絶対に有り得ないと。

 ここではお開きになるが、強盗の乱入によりこの問題は再び浮上することになる。脱出しようにも行った作戦が強盗ではない誰かに邪魔され、一人殺された時には誰も彼もが疑心暗鬼になっていて、思い思いに朋美の事故に対する推測が明かされていくわけだが、この件に対して私が思うのは恋って怖いなってこと。
 恋愛のもつれではなかった。恋愛になる前に終わらせたはずだったのに勝手に燃え上がった恋と一方的な未来への妄想から犯人は朋美の服用している薬を睡眠薬にすりかえた。
 朋美はそれに気づいてしまい、悲しみから自ら……つーわけで殺人ではなかったのだ。

 強盗云々は犯人の真意を知るために森崎家が仕組んだモノ。作家・桂子なんか舞台用に書き直すとかなかなかふてー女で、私的には人間性を疑いたくなる。死んでしまったからこそ、親友をそんな風に使える人間は嫌だ。いくら、真相究明が目的であっても。

 では、ここでお気に入りシーンへ。
 去っていく犯人の捨て台詞がお気に入りなのだが、それだとこれでも一応伏せている犯人がモロバレになるので、別荘に全ての参加者が集まった時の父・信彦の台詞を。


「さて、これでようやく役者が揃ったな」
 信彦が膝を叩いた。


 まさに言葉通りの意味だったと。
 この本は物語は面白かったのですが、解説の前振りにはがっかりだ。自分も同じようなことを書こうとしていた云々に対する作家さんの怒りは最もでしょうが、本は大切に扱ってほしい。歪んだ本とか、想像しただけで苦しくなるじゃないか……。


 

仮面山荘殺人事件
東野 圭吾
講談社 (1995/3/7)

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2012年03月20日

奇談蒐集家



 求む奇談!
 不思議な話をしてくれた方に高額報酬進呈。ただし審査あり。



 買い物リストを大幅に修正。
 最近漫画を買っていてそれにハマっていることもあるが、ちょいちょい発売日まで興味が持たなくなってきたので。
 だが、いざ発売日が近づくとまた悩むという優柔不断っぷりを私はよく発揮するw


・自分の影に刺された男
 仁藤春樹は不思議な話をすると高額報酬をくれるという奇談蒐集家・恵美酒の存在を知り、彼がいるというバー「strawberry hill」に訪れ、そこにいた恵美酒と助手・氷坂に仁藤は自身が体験した奇談を聞かせる。
 幼少時から臆病だった仁藤には怖いものが多く、特に自分の影が怖かった。光の加減によって増える影に囲まれているように思えてしまうのが怖かったのだ。そしていつの日か自分の影に「あいつ」という影に潜む存在が自分を狙っていると思い始めた。大人になってからそんな夢想など忘れていた仁藤だったが、ある日、同僚にその話をした後、「あいつ」に刺されることになる。


 タイトルに惹かれて購入、久々に短編集です。気合い入れろ、俺。
 あらすじ初めのバーに行って恵美酒と会うというのは、最終章以外はみんな共通。所謂、安楽椅子探偵モノというやつらしい。

 この話は三人称で始まるが途中、仁藤が恵美酒に聞かせるという形式上、奇談の部分は仁藤の一人称で語られる。これを見た時、私の悪い癖は発動してしまった。私はどうしてもその形式から裏にある狙いを読んでしまうのだ。一人称はその人の視点であるから間違いが起こりやすい。要するに、その人が真実だと思えば嘘も真実として語られるから。

 仁藤が話終わった後、恵美酒はまごうことなき奇談だと褒めるが氷坂は違う。彼か彼女かは氷坂の性別は分からないが、奇談に異議を申し立てることによって真相が明かされるというのが大半の展開。
 仁藤の話も奇談なんかじゃなく、彼が影を怖がっていることを知った同僚が……という答えを提示され、仁藤は報酬ももらえずに店を出ることになる。


・古道具屋の姫君
 奇談蒐集家・恵美酒の存在を知った矢来は自分が体験した奇談を持って「strawberry hill」に訪れる。
 貧乏学生だった時、本にしか興味のなかった彼はふらりと訪れた古道具屋で鏡に映った美少女の姿を見る。その話を店主にしたところ、この姿見には江戸時代の姫君の姿が映ることがあるという言葉を真に受けて大枚をはたいてしまう。
 だが、その鏡を買った夜に姫君は矢来の元に訪れて再会の約束をする。そして、矢来が大学の講師をしていると彼女そっくりな生徒が現れて結婚することになる。


 運命の人と言わんばかりの出会いをした経験を結婚記念のプレゼント代にしようとしていた矢来は、またも意義を唱えた氷坂によって打ち壊されることになる。
 端的に言えば、運命でもなんでもないと。
 氷坂曰く、鏡に映ったのは古道具屋にいた実在する人間で主人によって幽閉された少女。矢来同様、一目惚れをした彼女は主人を騙して矢来を殺すよう促し、それを請け負うことで自分は矢来に存在を植えつけて邪魔な主人を殺して自由になる。そして、少し経ってから出会うことでそれは運命に……という悪女説を語ってくれる。


 おかしい。読み終わった瞬間、そう思った。
 この時の違和感は徐々に増していくことになるのだが、言ってしまうと時系列に違和感を覚えた。どう考えても、矢来の語る過去は現在初婚の人間の過去の域ではないから。
 ま、矢来の年齢は明かされていないから何とも言えないが、前回の市役所勤めの仁藤と同じ時代だとは思えなかった。
 以降の話もそんな感じで、頭の中でごちゃごちゃ並べ替えながら読んでました。


・不器用な魔術師
 シャンソン歌手・紫島はまだ駆け出しだった時代、フランスで経験した奇談を語る。
 そこで出会った青年・パトリスは手品を「魔術」と言い練習を重ねていたが、不器用なためにいまいち上手くならない。そんな彼と仲良くなった時、ふと彼が本当に魔術を使っているところを見てしまい、彼が魔術を隠すために手品を覚えようとしていることを明かされる。
 その後、大晦日に家を出ろと言われ彼との最初で最後のデートを過ごした日、彼女のアパートは燃えていた。


 ロマンチックな恋物語の裏側で実はあなたは騙されていたのですよと明かされるよくある話。
 ざっと言うとパトリスが紫島に接近したのは彼女の隣の部屋の人物を殺すためで、大晦日デートも彼女が家を空けることで仲間が犯行をしやすく……というもの。

 紫島は頭のいい人なので勘付いていたようで納得して帰りましたが、読んでるこっちは恵美酒たちの胡散臭さが高まるばかり。所詮、氷坂の説だって想像の域を出ないはず。本当に真実を言い当ててるとしたら、こいつら人間じゃない何かだろうと思ってこの辺から警戒しまくってました。

 だいたいなっ、氷坂が男か女か分からないから俺のテンションが上がらないんだよw 私に恵美酒というオヤジを好きになる趣味はないのだよ。


・水色の魔人
 子どもの頃、草間は少年探偵に憧れていて当時世間を騒がせていた雨合羽を来た誘拐犯「水色の魔人」の正体を探っていた。だが、その遊びの途中、水色の雨合羽に襲われた草間は逃げ出そうとしたが仲間の二人が追って行ってしまい、その先には雨合羽と子どもの死体だけが残されていた。の下に子どもの物語は八軒勇吾の高校生活の始まりから。


 この話が一番むごかった。
 少年時代の遊びで死体を発見してしまったのもあれだが、氷坂から語られた説も。氷坂曰く、この犯人は仲間のリーダー格の兄。草間は恐怖から詳しく見ていなかったため兄の姿を見ていないから、仲間の二人が口裏を合わせて兄の存在を隠した。そして、草間の元妻と娘は今その兄と……。

 な、悪夢すぎるだろ?
 とんでも話だが、自身もとんでも話を持ち出している以上冷静ではいられないのだろうな。自分は騙され、狂気の存在が愛していた家族とともにいるなんて、私なら発狂するし耐えられない。


・冬薔薇(ふゆそうび)の館
 智子は高校時代の冬に発見した薔薇園でその館の主人を名乗る青年に会う。そして、逢瀬を重ねるうちにずっと一緒にいたいと言われ決心を固めるのだが、あまり仲の良くなかった母が倒れたことにより約束を破ってしまう。
 後日、薔薇園に訪れると青年の隣にはもう違う女の人がいた。そして、庭師は智子に「あんたは薔薇になる機会を逃したのだ」と言う言葉を残した。


 うたわれるものをやりこんだ私にはカルラを思い出した。そして案の定、カルラを狂愛していたあの敵がしたことと同じことをして成り立っていた薔薇園だったという話。
 つまり、薔薇の栄養素は人間。選ばれた女は本当の主人である庭師によって薔薇のために殺される、と。

 狂気の沙汰と言えなくもないが、『アリス・ミラー城殺人事件』の犯人の所業に比べるパンチが弱い。あの人は私が小学生時代に思ったことを大人になって実行してしまったから、もう笑うしかない。リトマス紙が異様に好きだっただけのガキがあんなこと考えていた時点でどん引きではあるのだがw


・金眼銀眼邪眼
 小学生の大樹は公園で出会った猫・ヨミとナイコと名乗る少年に言われ、一日だけ家出をする。そこでナイコの言う「夜の子ども」を体験するのだが、邪眼故に怖れられるナイコの姿を知り、ヨミを預けられることになる。


 あらすじがぞんざい? ははは、だって私この話よく分かってないから。
 小学生が語っているという点もあるせいか、非常によく分からない。この物語は現代なのだろうが、現代で目の色のことで邪眼と差別されるとは思えないんだよなー。
 妹の事故に関する話は至って現代的なのに、邪眼というファンタジーが入っていてちぐはぐな感じ。いや、うやむやに終わらせようって感じかな?

 でもな、どうやらこの納得したようなできないような感覚が狙いなようですよ。


・すべては奇談のために
 ライターの山崎は奇談蒐集家の話を聞き、その存在について記事を書くことにした。調べていくうちに様々なところから奇談蒐集家の話を聞き、そして誰もがバーの場所が分からなくなってしまったと語るという不可解な現象にぶちあたる。そして、過去の本にも彼らのことが書いてあったりと不気味な存在であると分かった時、山崎の前に「求む奇談」の広告が目に入った。


 話は一点、最後のシメです。
 奇談蒐集家という存在そのものに疑問を抱いた山崎は今まで語られてきた人たちから話を聞くことに。と言っても全員から直接ではなく、伝聞だったり本だったりと。時系列がおかしいっていうのは正解だったのである。

 では、簡単に彼らのその後、一部本当の真実をまとめる。
 ・仁藤、同僚に襲いかかり自宅謹慎へ。妻と子供は実家に帰る。同僚に氷坂が語ったような事実は一切なかった。
 ・矢来、戦前の評論家。妻とは離縁。
 ・紫島、調べている途中に亡くなる。手記に感謝しているという内容の文書あり。
 ・草間、元妻の再婚相手を殺人犯と告訴。だが、事件の真相は嫌味な草間を懲らしめようとした仲間二人が水色の魔人を作り上げたら、偶然そこに死体があった。
 ・智子、人生の見方が百八十度変わり浮気をした夫と離婚へ。だが、子どもを抱えてなんとか凌いでいる生活。

 このことから、大樹を使ってバーの場所を知った山崎はこの奇談蒐集家の奇談を持って恵美酒の元へ。
 だが、それこそが彼らの目的であった。自分たちが奇談になるそのために、山崎のような語り手を探していたのだった。そして、彼らは消えてしまう。

 正直、読んでいる内に予想できる結末だった。しかもあっさりとしているため恵美酒や氷坂に愛着が持てず、終始他人事として終わってしまった。ま、私が読者として性質が悪いのもあるのだが。
 底冷えするような恐怖の話ではないが、一つ一つは物語として面白いので信じていたものが一瞬で覆され絶望する人の姿は中々に壮観。願わくば、読者として最後に同じ境遇に立たせてほしかったのが。

 では、ここでお気に入りへ。
 といっても今回はなかったので氷坂が繰り返すとある言葉を。


「本当に不思議な話なんて、そう簡単に出会えるものじゃない」


 だからこそ作ろうとしたのだろうが、できることなら彼らの背景を知りたかったな。でも、そうすると物語の謎が成立しなくなってしまうから困る。
 でも、氷坂が男は女ぐらい教えてくれたっていいじゃないかっ! 女じゃなかったら空間がむさすぎるぞw

 

奇談蒐集家
太田 忠司
東京創元社 (2011/11/19)



posted by SuZuhara at 09:27| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月04日

売り出された花嫁



 え、お姉ちゃんが愛人契約!?


 隔離生活とひきこもり生活の違いが分からない昨今、咳が止まらないこと以外は元気です。
 でもなー、せっかくの休みなら何かしたいという欲求を抑えられない。だからいつの間にかパソコンの前にいるんだがねー。


・泣きぬれた花嫁
 恋人との待ち合わせ中にデモに出くわしてしまった結は機動隊とのいざこざに巻き込まれて怪我を負う。巻き込まれたにもかかわらず大学を退学となり、体裁を気にする親元から家出した結は亜由美の家に身を置きながら恋人との愛を深めていくが、巻き込まれた事件が重い楔となってしまう。


 何だかんだで絶対的な面白さを期待している花嫁シリーズ。
 今回は不審な警察や手の早い大学側などの動きでこの二つは繋がってんなー、と想像するのは簡単だったが、最後は予想できなかった。
 というか、赤川さんの作品は「おいおいそれでいいのかよ?」とこっちが心配になるほどの直角ハッピーエンドに向かうことがあることは知っていた。でも、まさかこうなるとは……。

 事件? んなもの関係ねぇ! とばかりにいちゃつき、結婚の約束までしていたにも関わらず、結は彼の何気ない一言で結婚をやめた。
 両親のために嘘の証言をしろ。結婚生活には妥協も必要だ。
 それは確かに正しいことなのかもしれない。いや、正しくはなくとも、そうした方が得ではあるだろう。
 でも、いきなり機動隊に囲まれボコられたという恐怖を慮らない無神経な発言だった。

 だから、結は好きだけど結婚はしないという結論に至った。まさか最後の最後でバッドエンド行きとは……完全に予想外だったよ。

 今回はここでお気に入りシーンへ。
 調べる相手が公安の人間だと知っても退かない殿永警部の格好いいシーンを。


「殿永さん大丈夫? 上からにらまれたりしない?」
 それを聞いて、殿永は微笑むと、
「もともと、警視総監になりたいとは思っていませんでしたからね」
 と言った。


 犯人を逮捕する時ですら彼の平静は失われない。
 だからだろうな、この人は頼もしい。


・売り出された花嫁
 待ち合わせ中、偶然愛人契約の場に居合わせてしまった亜由美だが、女に契約を持ちかけていた相手・落合は亜由美の待ち合わせ相手・水畑貴士のかつての家庭教師だった。
 再会を喜んでいると落合を狙った銃弾に水畑が撃たれてしまう。それを機に止まっていた落合と水畑母の関係は動き出すが、落合は復讐に向かってしまう。


 さて、ざくっと言ってしまうとこれは落合の物語であり、売り出された花嫁であるはずの双葉あゆみ嬢は超脇です。もう気にする必要もないのではないかと思うが簡単に書く。

 家族のために愛人契約を結んだあゆみだが、老人の部屋でご飯を作りに通うだけという拍子抜けな生活を送っていた。だが、老人の家に通うところを妹に見られてしまい、勘違いした妹が私が代わりに〜という展開になるが、やっぱり怖いお姉ちゃん代わって。うはは、実は私は君たちのお祖父ちゃんなのだよ!

 ……いや、マジで。
 ほとんどこれに限る。そして物語の大体は昔の家庭教師を慕う青年が身体を張って助けると、その家庭教師と母親ができていたというショッキングな物語が中心軸として語られていく。

 表題作のわりにはあっさりしていて、前が予想を超えてくれたばかりに大した印象には残りませんでした。

 しっかし、これは花嫁モノと言えるんだろうか?
 



売り出された花嫁
赤川 次郎
実業之日本社 (2011/12/8)
posted by SuZuhara at 11:40| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月06日

黒いペンの悪魔 新装版



 黒インクで書かれた手紙が凶行を配達する!


 最近はまったりと部屋で映画を見るのが好きなのだが、さすがテレビ放送されるモノを手当たり次第に観ていると辺り外れがでかい。この前なんか、人殺しが正当化されてたもんなー。そしてハッピーエンドだと露骨にがっかりする私がいる。
 昨今、予想を超えてくれることに自分の焦点が集まっていて飢えている感じが否めない。だが、これに飢えるって俺ェ……。


・あらすじ
 ボーイフレンドからもらった心のない手紙に自殺を図った友人・美咲を救った由利子、旭子、香子の三人組が助け出す。しかし、その手紙のインクの色から何者かによって偽装されたモノであることが判明し、教育評論家の田原寿江を筆頭に黒インクで書かれた手紙によって田原家の秘密が明かされていく。


・感想
 かなーり久々な赤川次郎。そして案の定、どこからどこまで呼んだか分かっていない悪魔シリーズです。

 物語は黒いインクで書かれた手紙によって巻き起こる些細な事件から。自殺未遂はどうかと思うが、蓋を開ければよりイチャついているんだからリア充爆発しろである。

 問題は、学校に講演会に来た教育評論家の田原寿江の不倫現場がスクリーンに晒されたことから始まる。他にも手紙によって放火未遂とかあるが、ここでは重要なのは田原家。
 叩けば埃はどこからだって出るもので、いろいろと夫も浮気とか出てきてしまうのだが、一家はそれを受け止め再出発のために記者会見を開くが、夫の浮気相手が手紙で操られ……最終的に死んでしまうのだが、彼女の生き様には好意が持てたなー。この人、本当に好きだったんだなって。

 事件の発端は教育評論家たる母のとあるミスが生んだ恨みからだったのだが、これは何とも言えないな。ポロっとやってしまいそうだし、やられた方なら絶対許さないという受け手によって格差のある痛みレベルでした。

 三人組は相変わらずで隙さえあれば食事していますが、今回は由利子の妹、真由子が頑張っていました。
 しかしこの妹、姉のあしらい方に定評がありすぎるw

 では、ここで今回のお気に入りシーンへ。
 火がつけられた学校に取り残された由利子と旭子を助けるため、香子がベンツで突っ込んだシーン。車がおしゃかになったことを気にしていると香子は優雅に言う。そして、オチ担当旭子w


「車なんて、いくらでも代わりはあります」
 香子は、由利子と旭子の肩に手をかけて、「お姉様たちは、かけがえのない方たちですもの」
 由利子も胸が熱くなった。――やけどする心配のない、「熱さ」だった。
「良かった」
 と、旭子が泣きながら言った。「私、ベンツより高いんだ!」


 感動が台無しだよw
 相変わらずさくさく読めるだけでなく、香子のキャラもあっていい感じにぶっ飛んでるところが面白かったです。しかし、金持ちキャラはどこでだって優良だなー。

 


黒いペンの悪魔 新装版
赤川 次郎
光文社 (2011/8/10)

posted by SuZuhara at 21:16| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月09日

片耳うさぎ



「もしも私がうさぎの子どもなら、私こそ、この家にいてはならない片耳うさぎだよ」


 物欲が満たされなくて辛い。なんか分からんうちに試験とか受けなくちゃいけないことになっていてもっと辛い。
 今月末をよすがに生きていますが、大丈夫かなー? 私にはどうも発狂EDにしか思えないんだよねー。てか、12月にいろいろ我慢した結果が今私を苦しめているのもあるのだが、やっぱりいまいちゲームにハマれていないのだ。
 


・あらすじ
 父が仕事で失敗したことから父の実家で暮らすことになった奈都だが、古い屋敷である蔵波の家が苦手だった。母の用事から大きくて広い屋敷に心を許せる人なしで過ごすことになったことを嫌がる奈都を見て、友人の祐太は姉と言ってさゆりを紹介する。
 古いものが好きだというさゆりがともに過ごしてくれることになり一安心かと思いきや、奈都は好奇心旺盛なさゆりに連れられて屋敷の探検に行き、隠し扉まで見つけてしまう。
 そして、過去にあった「片耳うさぎ」の言い伝えを聞かされた後、奈都は過去の記憶を探りながら屋敷に隠された秘密を知ることになる。


・感想
 久々にラノベじゃない小説。成風堂書店の著者さんの本です。
 どちらも同じ人に薦められた本ですが、どうやらやたらとハマっていたようで著者買いしないのに珍しいと思いながら読了。
 うん、毒がないとか思ってない。誰も死なないなんて残念がってなんかいないんだからっ!

 さて、小学六年生の奈都の冒険ものとでも言いましょうか。
 親戚はいるけど、心を許せる人のいない屋敷の中で一人過ごすことになった奈都が、知り合ったばかりだが頼れる中学生・さゆりとともに屋敷の謎に迫っていく話。

 蔵波の屋敷には以前、片耳のうさぎを家にいれたことで人が死んだという言い伝えがあった。ちょっと曖昧なのだが、男二人が女を奪い合い、男がもう一人の耳を傷つけちゃうとかで片耳うさぎだった気が。
 失礼だが、序盤はちょいと退屈感があるのであまり覚えていないのだ。むしろ、家族の関係線の整理が大変だった。私は絶対に家の見取り図には頼らないから。ただの意地だが。だから、家系図も見なかったし。

 この物語で重要なのは、奈都の過去の記憶と屋敷の秘密。
 奈都はまだもう少し小さかった頃、この家でおもちゃがいっぱいの天国のような場所を見た。夢かと思われたその場所から奈都が持ち帰ったうさぎのぬいぐるみ。だが、この家では片耳うさぎの一件からうさぎはタブー。
 屋敷には隠し階段があり、屋根裏に登ることができた。そこで祖父が何者かと出会い転倒するという事故が起こるのだが、ここで狙われているのは叔母の雪子の秘密。
 みんなが血眼になって探すそれは、奈都のうさぎの中にあった。

 奈都は初め甘えん坊としてしか描かれていないが、徐々に聡明さを出していってくれるので共に進行する者として嬉しい限りだが、最後の最後でさゆりの謎が浮上したのは辛かった。てか、さゆりが敵だったら立ち直れないよ。
 さゆりは頼りになるというか、アグレッシブな方なので奈都が常に引っ張られる。だが、彼女の行動は行動的なだけと言いますか、多少思慮に欠けるというか、その点では奈都に分があるので良いコンビでしたな。しかも、超美人らしいしw

 さゆりの目的は最後の方までいくと分かってしまったが、さゆりが来たおかげで奈都が伯母と近づけたのは良かった。いい女だとは思わないが、ちょいと魔性の女だから気をつけろ。私は彼女のたった一言でノックアウトしたからな。

 では、そこを今回のお気に入りに。
 気難しい伯母に気に入られたというのに、ちゃっちゃかと忍び込む算段を立てるさゆりと止める奈都。
 こういうことをさらりと言われたら、惚れざるを得ないだろうよ。


「やめてください。こっそり中に入るなんてありえない。見つかったら殺されちゃう。大叔母さんがどういう人なのか、さゆりさんにもよくわかったでしょ。せっかく気に入られたのに」
「私はどっちかっていうと、なっちゃんのお気に入りになりたいな」


 私もちょろいな……。
 だけど、こういうやりとりがあって最後にさゆりを信じた奈都のシーン。そして、どっちかが男だったら結婚したかったというさゆりの言葉は冗談だが、それだけ絆が深まった証拠にも思える。
 そして、華麗に一蹴された良彦。今回、お前だけは泣いていい。抱きついてくるのが、婆さんだけって切なすぎる……っ。





片耳うさぎ
大崎 梢
光文社 (2009/11/10)

posted by SuZuhara at 09:10| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする